あのちゃんの元祖!?「ボクっ娘」キャラ確立した手塚治虫の傑作「三つ目がとおる」連載初出時のレア版発売

北村 泰介 北村 泰介
週刊少年マガジン(1975年8月31日)に掲載された「三つ目がとおる」の扉絵。主人公・写楽保介が描かれているⓒ手塚プロダクション
週刊少年マガジン(1975年8月31日)に掲載された「三つ目がとおる」の扉絵。主人公・写楽保介が描かれているⓒ手塚プロダクション

 一人称が「ボク」の若い女性を「ボクっ娘(こ)」と称することもある。有名人を例に挙げると、最近ではタレントで歌手の「あの」(愛称・あのちゃん)も該当するが、その元祖となるヒロインを生んだ巨匠の傑作漫画がある。手塚治虫の「三つ目がとおる」だ。7月で連載開始から50年となる節目を記念し、雑誌オリジナル初出版を中心に構成した「三つ目がとおる ミッシング・ピーシズ」(立東舎)が10日に発売された。その内容や魅力について関係者に聞いた。

 同作は「週刊少年マガジン」(講談社)で1974年から78年まで連載され、テレビアニメ化もされた。当時のオカルトブームを背景に、主人公の中学生「写楽保介」は古代ムー大陸で文明を繁栄させた「三つ目族」の末えいという設定。額に貼っている絆創膏が剥がれると、第三の目が露出し、超能力がもたらされる。

 その写楽のパートナーである少女「和登サン」(和登千代子)は一人称が「ボク」であり、漫画作品に登場する「ボクっ娘」キャラを最初に確立したといわれる。著名な手塚作品「リボンの騎士」の主人公・サファイアも「ボク」と言うが、男の子として育てられた男装の騎士であり、ナチュラルな女性として描かれる和登サンは「ボクっ娘」のパイオニア。「あのちゃん」の〝元祖〟といえるかもしれない。

 手塚は雑誌連載時と単行本化では大胆なアレンジを施し、構成やセリフが変更され、カットされるコマもあった。本書では、その両方を同時掲載し、比較可能な構成になっている。収録作の中では、連載の第38、39回の「キャンプに蛇がやってきた」(前後編)と単行本版が併載。同じ絵でもセリフが違っており、連載の前編に登場した「山中の別荘で発見されたミイラ化した死体」のシーンが単行本ではカットされていた。

 また、第1話「三つ目登場」の原画はカラーで掲載。さらに、昨年11月に立東舎が刊行した「ブラック・ジャックミッシング・ピーシズ」同様、連載時の最終話の初出版と単行本版が比較できる形となっている。そのほか、発掘された素材を含む約60枚のネームやキャラクタースケッチ、連載時の扉絵や自筆のシノプシスなどの関連資料、初出・単行本掲載作品リストもある。

 企画者であり、本書の「解題」で『三つ目~』の全体像をつづったアンソロジスト(編集者)の濱田髙志氏は、同時期に「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載された「ブラック・ジャック」との比較で、当時の手塚による創作活動において、この2作が「少年誌における両輪の役割を担った」と指摘。「ブラック~」が連載終了後も単発作品が発表されたのに対し、「三つ目~」は再び描かれることがなかったため、今回の新刊は「ファンにとって待望のお宝発掘」と解説した。

 和登サンについてだが、第1話では気っぷがよくて正義感の強い少女として登場し、クラスメートにいじめられる写楽を守り、からかってくる男子生徒には豪快なビンタをお見舞いする芯の強さがあった。その後、三つ目となることで超能力を発揮する写楽の力強い姿にひかれ、恋愛感情と共に母性愛もにじみ出るようになる。最終話では、母のように写楽を包み込んで混浴するラストシーンが印象的。「唐突な終わり方」という感想も抱かせる、その伝説的な場面も雑誌連載版と単行本版の2パターンが収められている。

 そんな和登サンについて、濱田氏は「数ある手塚キャラのなかでもサファイア、ピノコ(ブラック・ジャックに登場)と並ぶ屈指のヒロイン」と評した。サファイアやピノコに比べ、一般的な知名度はやや低いかもしれないが、今回の新刊をタイムマシーンとして「半世紀前の元祖・ボクっ娘」と出会える。

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