育児休暇を巡って会社の中で複雑な思いが交錯することがある。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏が一例を挙げながら、その対応策を提言した。
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【今回のピンチ】
あなたは子育て中のビジネスウーマン。もうすぐ育休に入る同期の男性が「オレが家にいても役に立たないから、実質的には長い休暇と同じだね。ハハハ」と笑っている……。
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「男性も育休を取るべし」という機運が高まるのは大いに結構です。しかし、この手の勘違い野郎が、会社の方針で何となく育休を取り、むしろ妻の負担を重くしてしまう悲劇があちこちで起きているとか。
同期の男性とは入社した頃から仲が良くて、何でも言い合える関係です。これまでは「いいヤツ」だと思っていましたが、この発言には心の底からガッカリしました。子育て中の身としては許しがたい暴言です。
自分にとってのピンチではありませんが、この同期の夫婦関係はかなりピンチな状況と言えるでしょう。大きなお世話を承知でダメ出ししたい、とても黙ってはいられないという意味では、勇気を求められる大ピンチです。さて、どう言えばいいのか。
こんな甘ったれた了見のヤツに、冗談っぽく「奥さんに捨てられるよ~」と言ったところで、まったく響かないでしょう。「いやあ、大丈夫だよ。ウチのは母性本能が強いから、子どもの相手は苦にならないはずだよ」などと能天気に言い出して、さらに腹が立つ展開になりそうです。
「心配だなあ。私の知り合いでも、育休に入ったダンナが何も手伝わなくて離婚した人がいたよ」と、架空の“実例”を話して危機感を持たせようとしても、効果は薄そうです。
実際、やんわり警告したぐらいで、この同期が心を入れ替えることはないでしょう。ここはとりあえず、自分自身が「やるだけのことはやった」と思える境地を目指したいところ。彼ら夫婦の未来がどうなるかは、こちらが関知できることではありません。
せっかくの「何でも言い合える関係」なんですから、半端に遠慮せず、真顔でビシッと忠告してやりましょう。
「まさか、奥さんにそのセリフは行ってないよね。もしウチのダンナが、あなたと同じことを言ったら、私は2秒で離婚を決意する。世の中の99%の妻は、そうするでしょうね。それに、会社はあなたに休暇を与えたわけじゃないわよ。あなたの分の仕事を負担してくれる同僚も『ふざけるな!』と思うかな。さっきのセリフをみんなに言ったら、あなたの戻る場所はないかもよ」
こっちの本気を察して、「オレ、そんなにヘン(変)なこと言ってるかな……」と自分を省みたとしたら、まだ救いはあります。どこがヘンでどこがダメかを説明してあげましょう。
「なんでそこまで言われなきゃいけないんだ!」と怒り出したとしても、まあしょうがありません。半端に言葉を飲み込んで、モヤモヤを抱えるよりはずっとマシです。育休に入ったら、やがて確実に妻と衝突するので、こっちの忠告の意味に気付く……かも。
しょせんは社内の人間関係です。不愉快な勘違いを愛想笑いでスルーしたり、言いたいことを我慢したりしてまで、表面的な平和を維持するほどのものではありません。