約半世紀前、変身シーンが社会現象にまでなった伝説の特撮テレビドラマ「超人バロム・1」(東映・よみうりテレビ制作)の主演俳優・高野浩幸が、28日に旗揚げ戦(東京・パームス秋葉原)を行う「怪獣プロレス」で〝怪獣使い〟の司令塔役としてリングデビューする。名子役として1970年代に脚光を浴び、現在も舞台などで活動を続ける高野に新境地への思いを聞いた。
JR新宿駅西口地下で待ち合わせした高野は「『新宿の目』ってご存じですか?」と問うた。「『バロム・1(ワン)』の初回で(悪の組織)ドルゲに人間が襲撃される最初の現場です」。高野の先導で、合流した怪獣プロレスの社長兼レスラー・雷神矢口と共に後を追うと、壁に埋め込まれた巨大な目のオブジェの前にたどり着いた。「新宿の目」の前、高野と矢口はバロム・クロスを繰り返した。
「超人バロム・1」は72年4月から同年11月まで、毎週日曜夜7時半から日本テレビ系の30分枠で放送。原作は「ゴルゴ13」で知られる劇画界の巨匠、さいとう・たかを氏だ。人類滅亡計画を企むドルゲに対し、高野演じる白鳥健太郎と飯塚仁樹(ひろき)さん扮する木戸猛という2人の少年が合体変身したバロム・1が立ち向かうのだが、両者が互いのひじ部分を重ねて「バロ-ム・クロス!」と叫ぶ変身シーンは当時の子どもたちが真似したものだ。芸能界では、当時小学3年生だった63年生まれのダウンタウンが「バロム・1」好きを公言していることでも知られる。
61年1月生まれの高野は当時小学6年生。既に子役として7歳の時に「ウルトラセブン」 第45話「円盤が来た」(68年)で好演したほか、「帰ってきたウルトラマン」(71-72年)などにも出演し、同世代の間では〝テレビの中のスター〟だった。62年9月生まれで、当時小学4年生だった矢口は「学校で同級生がケンカしていたら、みんなでバロム・クロスをやらせて仲直りさせた。愛と友情のバロム・クロスはラブ&ピースなんです」と懐かしむ。
そんな高野と矢口は今春、怪獣プロレスに登場する怪獣のキャラクターデザインを担当する怪獣造形作家・赤松和光氏を介して出会って意気投合。高野は同団体の「怪獣大使」に就任し、旗揚げ戦では怪獣レスラーを操るマネジャー的な役割を担う。
高野は「僕が30代半ばだった『ウルトラマンティガ』(96-97年)では『キリエルの予言者』という〝悪〟の役をやっていたので、プロレス的にヒールもいけるんじゃないかと。その予言者は等身大の人間でありながら、身長33メートルのウルトラマンに向かって『きさま、おこがましいと思わないのか!』と言うセリフが印象深くて、その辺も意識しています。迷彩色の衣装に眼帯をし、ひげも伸ばしています」と自身のキャラクター造形を明かした。
また、「ウルトラマン80」や「科学戦隊ダイナマン」など80年代のスーパー戦隊シリーズに出演していた女優・萩原佐代子が高野と対峙するキャラで登場予定。レジェンド対決も注目される。
高野は寺山修司監督の映画「田園に死す」(74年)やNHK少年ドラマシリーズ「なぞの転校生」(75年)でも注目されたが、バロム・1で相方を務め、その後は芸能界を去った飯塚さんのことが今も気になっている。ある日、不思議な夢を見たという。
「実は10年くらい前に、飯塚君と上野のスナックで会っていたという知人の方から〝信じたくない話〟を耳にしました。まだ、はっきりしたことは確認できていないので、何とも言えないんですけど…。その後、ラジオ番組に出演する前に見た夢の中、会議室みたいなところで斜め前に飯塚君が座っていた。斜め後ろには僕が演じた健太郎の母役・上田みゆきさんがいて、僕は『健太郎をやってた高野です』と一生懸命に言うんですけど、上田さんが首をかしげた、その時に飯塚君が腕を出してきた。彼はしゃべらなかったけど、バロム・クロスをしたら僕のことが分かるんじゃないかというのと、『ラジオに出るなら俺の話もしてくれよ』ということで出てきたんじゃないかと思っています」(高野)
高野の人生では随所にバロム・1が登場してきた。
高野は「今、62歳ですけど、『もう一花』となった時に、『昔、バロム・1やってました』ではなく、新しいことをやっていたい。そういう意味で怪獣大使はやりがいがある。いつか、ダウンタウンの松ちゃん、浜ちゃんとバロム・クロスをするのが夢です。松本(人志)さんはウルトラセブンもお好きなので、『円盤が来た』の子どもが僕だったことも伝えてみたい」と笑顔を見せた。
11月4日には、都内のプリズムホールで第2弾興行を開催。「子どもさんにも観に来て欲しいです。怪獣プロレスで『友情のバロム・クロス』を広げたい」。高野は世界から注目される日本の「KAIJU」使いに活路を見いだした。