90歳の高木ブー 20年ぶり自伝に込めた「伝えておかなければ」の思い 盟友の死去が転機、家族と共作

北村 泰介 北村 泰介
高木ブーの自伝「アロハ 90歳の僕」(小学館)。表紙の近影は今春、大学生になった孫が撮影した
高木ブーの自伝「アロハ 90歳の僕」(小学館)。表紙の近影は今春、大学生になった孫が撮影した

 今年3月に卒寿(そつじゅ)を迎えたザ・ドリフターズ(以下・ドリフ)の高木ブーが著書「アロハ 90歳の僕~ゆっくり、のんびり生きましょう~」(小学館)を4月に刊行した。家族による座談会、「2人ドリフ」の盟友・加藤茶(80)をはじめとする縁(ゆかり)のある8人による証言も加わり、新たな「ブーさん像」が多面的に浮き上がっている。本書の構成を担当したライターと編集者に話を聞いた。

 2003年5月に刊行された「第5の男」(朝日新聞出版)以来、20年ぶりの自伝。その翌年にリーダー・いかりや長介さん(享年72)が亡くなり、コロナ禍となった近年は、志村けんさん(20年死去、享年70)、仲本工事さん(22年死去、享年81)が死去。このタイミングでの出版は、「2人になったドリフ」の一翼を担う90歳現役の高木にとって、今は亡き仲間との日々などの記憶を残しておきたいという思いがあったのだろうか。

 構成した石原壮一郎氏は「志村さんが亡くなったことが転機となり、それ以降、高木さんの中に、自分が伝えておかなければという気持ちが強まったように感じました。『僕がドリフの一番のファン』というのがブーさんの口癖なのですが、自分しか語れる者がいない、大好きなドリフについて、当事者の自分が見たことを後世に残したいという思いです」と明かす。

 19年に始まったウェブサイト「介護ポストセブン」の連載が元になった。編集担当の関和子氏は「若い世代の新たなファンが増えてきていることも単行本化したいと考えた理由の一つです。『ゆっくり、のんびり生きましょう』という副題を付けておりますが、毎日バタバタ、あくせくしている人たちにブーさんが教えてくれるメッセージだと思います」と解説。石原氏は「20年ぶりの自伝と90歳のタイミングになったのは、偶然と言えば偶然ですが、ブーさんの人生の歩みを考えると必然だったかもしれません」と補足した。

 本人の一代記だけでなく、長女夫妻と孫のコタロウさんによる「ココだけの話」、サザンオールスターズの関口和之、歌手の荻野目洋子、俳優・赤井英和、筋肉少女隊の大槻ケンヂ、ももいろクローバーZの高城れに、エッセイストの海老名香葉子ら世代もジャンルも異なる人たちによる「ブーさんと私」からも、新たな一面が浮かび上がる。

 関氏は「ブーさんがドリフのみならず、様々な分野でご活躍されていて、魅力的であるかをお伝えするのに、ご家族をはじめ親しくしている方々のインタビューを入れることは大変効果的だろうと考えました。縁の方々がそれぞれのブーさん愛を語っていただけたことは、とてもありがたいことでした」と振り返り、石原氏は「それぞれの『ブーさん像』が微妙に違っているのが面白かったです。それだけ、ブーさんという方が幅広くて多様な顔を持った方だということなんだろうなと思います」と付け加えた。

 昨年10月に急逝した仲本さんもその中に入る予定だったという。関氏は「大変悲しいことに、実現できなくなってしまいました。それは、とても心残りです」と惜しむ。一方で、今春、大学生になった孫が撮影した近影も掲載され、そのうちの1枚は表紙を飾った。

 関氏は「コタロウさんの個展で拝見したお写真は優しくて、懐かしい気持ちを呼び起こしてくれる素敵なものでした。『日常のブーさんを自由に』とお願いし、(表紙は)海辺でウクレレを弾くブーさんに決まりました。いろんな意味でご家族愛が込められた一冊になったと思っています」という。

 石原氏は「高木ブーから学んだこと」を挙げた。

 「『自分は自分である。他人と比べても仕方ない。欲を出して背伸びしても何かが得られるわけではない。等身大の自分にできることこそが、天が自分に与えた役割。運命は自分で選んで決めるものではない。自然に流されていれば、いちばん居心地がいいところ、自分が活躍できるところに流れ着く』…など、直接、ブーさんがそうおっしゃったわけではありませんが、そんなことを学んだ気がします。大人としては『無理をしないことの大切さ、無理をしない勇気を持つ大切さ、自分を過大評価しない、かといって自分を卑下しない大切さ』といったことを学べたらと思います。一種の悟りの境地と言えるかもしれません」

 「人生は運と実力とチャンス」。高木は自身の座右の銘を本書に記した。そして、「ウケないことが僕の存在意義」とも。石原氏は「誰にも自分の役割があり、すべての役割は同じように大事である。流されるまま生きることは決して後ろ向きなことでも怠惰なことでもない…と、ブーさんの生き方が教えてくれることも、この本から読み取ってもらいたいことの一つです」と思いを語った。

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