なぜ少年犯罪は起こるのか?『対峙』加害者と被害者遺族の両親が“対話” 裁判だけでは納得できない思い

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「対峙」のワンシーン=© 2020 7 ECCLES STREET LLC
「対峙」のワンシーン=© 2020 7 ECCLES STREET LLC

 様々なルポライターのノンフィクションを読むたびに、「生育環境に問題はなかったのか?」「 問題行動はなかったのか?」と読み漁ってしまう。日本を震撼させた少年犯罪といえば1997年に起こった「神戸連続児童殺傷事件」ですが、加害少年、加害者両親、被害者遺族の本など多く出版されているものの、いまだに世界から銃乱射事件や少年犯罪は消えていません。

 そんな少年犯罪をテーマにした映画が2月10日公開となる『対峙』です。

 物語の舞台は小さな教会。そこで行われる会合を前に一足早く訪れた仲介人の女性が部屋を隅々までチェックしています。やがて2組の男女がその部屋に足を踏み入れますが、重い空気の中、ぎこちなく挨拶を交わすジェイ(ジェイソン・アイザックス)とゲイル(マーサ・プリンプトン)夫婦が相手側に家族写真を見せるのです。それをきっかけに感情が大きく波打ち、ゲイルは正面に座るリンダ(アン・ダウド)とリチャード(リード・バーニー)夫婦に向かって「息子さんについて覚えていることをすべて話してください」と口火を切ります。彼らは学校内で起こった銃乱射事件の被害者遺族と加害者家族だったのです。

 本作は、俳優であるフラン・クランツが2018年にフロリダ州パークランドの高校で起こった元生徒による銃乱射事件のニュースに衝撃を覚え、以降、1999年のコロンバイン銃乱射事件やその他の銃乱射事件を調べる中で、加害者の両親と犠牲者の両親が会談したという記述からヒントを得てオリジナル脚本を書き上げた作品。しかもプロデュースも務め、初監督で撮った『対峙』は、英国アカデミー賞をはじめとした映画賞81部門にノミネート、釜山国際映画祭フラッシュフォワード部門観客賞ほか43部門受賞という快挙を成し遂げました。

 なぜ、そこまでこの映画が評価されたのでしょうか?それは誰も傷つけないよう配慮された脚本の素晴らしさと熟練の俳優たちによる迫真の演技が大きな理由だと考えられます。実は映画には回想シーンが一切使われておらず、ほぼこの4人による部屋での“対話”だけで事件の全貌や加害者少年の生育環境が語られるのです。

 それによりショッキングな映像によるフラッシュバックの恐れもなく、観客は安心して傍聴人としてスクリーンを見つめ続けることができます。しかも少年犯罪を目にした時に湧き上がる感情を被害者の両親が代弁するのです。これほどまでに凄惨な事件を起こすのなら親の育て方が悪かったのでは?成長過程で何か特異性を感じるようなサインがあったのではないか?彼はサイコパスではないか?発達障害ではないか?これらは子を持つ親が事件を目にした際に感じる疑問であり、我が子との違いを探そうとする無意識の恐れでもある気がします。

 裁判だけでは納得できない思いを、修復的対話法(修復的司法)という方法で、被害者と加害者が対話によって自分たちで解決策を探る姿を映し出した『対峙』。本作では一触即発の状況下で彼らの口からこぼれる言葉を地雷のように感じ、行動や表情、声色、言葉選びだけで人の怒りを買うこともあれば、話し合うことで変化をもたらす可能性もあることを描いていました。けれど「赦し」とは一体なんなのでしょうか。子を持つ親として、もし自分の近親者にそのようなことが起こったらと考えてしまうと、実は今もまだ答えは見つかりません。

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