育児や家事のお手伝いさんだった「とどこ」は、朝早くから夜遅くまで働き、なぜか無口でいつも古びた割烹着姿。主人公の少女は、お産で入院中の母と仕事で帰りが遅い父の代わりに、とどこといっしょの時間を過ごす中で親友のような関係となっていく。ほっこりとした温かい時間が流れるこの物語は、突如として日本にかつてあった残酷な風習や人権意識の低さから悲しい展開を迎えてしまう……。
Twitterで発表されたこの衝撃的な作品『ムシデン』は、「朝から泣いちゃいました」「通勤電車で読んではいけない」など、読者に強いインパクトを与え、300万回表示越えという話題をさらった。そこで今回は、作者であるかときちどんぐりちゃん(@katokich)さんに取材をお願いし、この作品が生まれた経緯や創作の背景について話を聞いた。また、この記事では、話題の『ムシデン』全編も紹介する。
社会からはみ出た“辺境な人々”を描きたい。
プロの漫画家からも評価を受け、今もなお、読者からのコメントが相次ぐ話題の作品『ムシデン』を描いたかときちさんは、何と趣味の一つとしてこうした創作を行っているという。「全くの素人で、趣味として漫画を描いています。厳密に言いますと、数十年ほど前に某雑誌に漫画や小説を載せてもらったことはあるのですが……半分、投稿雑誌のようなものですので、プロとは言えませんね」と笑う。
作者自身の体験を作品にしたかのようなリアリティが一つの魅力だが、創作の原点は、かときちさんの母の話だったとか。「昭和の頃に、母親から奉公のような形で子守りに来ていた少女の話を聞いて漫画のストーリーが浮かびました。家族のようで家族ではない、でも全くの他人ではない名状し難い存在への思慕、ノスタルジーを表現できたらなーと思って描きました」と話してくれた。また、各所で登場するエピソードについては、「我が家にいたお手伝いさんと凧揚げをしたことや、近所にいた女性などの記憶をうまく繋がるように創作しました」と、事実に即した内容も踏まえているそうだ。
また、『ムシデン』や、ほかの作品の共通点として挙げられるのが、切実な思いを背負った登場人物が描かれているところ。かときちさんはその部分について、「私が暮らす岩手県の山奥や、東日本大震災の被災地で仕事している時に出会った多くの人は、社会から何らかの形ではみ出てしまった方々です。それは、障害や貧困や、あらゆることが原因です。私自身もセクシャルマイノリティであり、障害を持つ家族がいることで、はみ出た方々との距離感が近いです。そんな辺境との地続きな感じを描きたいなと常々思っています」と、創作の原点についても語ってくれた。
現在55歳で大学に再入学するなど、活発に活動しているというかときちさんは「プロをめざすという気持ちはまったくなく、趣味として好き勝手に漫画を発表していきたいです」と話す。打算することなく、思うままに描くからこそ、多くの人の気持ちを惹きつける作品になるのかもしれない。
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