1970年代後半にブームを巻き起こした女性デュオ「ピンク・レディー」の未唯mie(64)が15日夜、都内で総勢20人以上のビッグバンドによる公演「新春〝Pink Lady Night〟2023」を開催。ピンク・レディーのシングル曲「ラスト・プリテンダー」の作曲者でもあるYMOの高橋幸宏さん(享年70)の死去が報じられたことを受け、よろず~ニュースの取材に対して「高橋さんとレコーディングで会えなかった」ことを明かし、その〝すれ違いの歴史〟を踏まえて「光栄でした」と感謝した。
「ラスト・プリテンダー」はピンク・レディーにとって最後から2枚目となる通算21枚目のシングル曲で、81年1月にリリース。高橋さんが女性歌手・RAJIE(ラジ)に前年提供した「偽りの瞳」という曲をテクノ調に編曲し、コピーライターの糸井重里が新たに作詞して発売された。
81年3月での解散を前年に発表していたピンク・レディーにとって終幕へのカウントダウンに入っていた時期。前年からのブームの渦中にあったYMOのテクノサウンドをバックに、ミイ(未唯mie)とケイ(増田惠子)が歌っているイメージが頭に浮かぶ。後年になって、マニア層に注目された〝テクノ歌謡〟の隠れた名盤だった。
だが、実際に高橋さんと顔を合わすことはなかったという。未唯mieは「残念ながら、レコーディングでお目にかかったことはなかったんですよ。ピンク・レディーの時には、できあがったもの(バックの演奏音源)に歌だけをダビングするという形で録(と)っていたので」と明かす。その後、テレビやライブでも歌われることはなかったという。
高橋さんの訃報を受け、未唯mieは「ですから、ほんとに、お目にかかりたかったですし、一緒にセッションをする感じも味わってみたかったなと思います。ほんとに素晴らしい楽曲を書かれていた方で、(ドラムの)演奏も素晴らしい方。曲を作っていただいて、すごく光栄でした」と振り返った。
ちなみに、YMOは結成した78年に、東京・新宿の紀伊國屋ホールで行われた所属レコード会社の音楽イベントでピンク・レディーの大ヒット曲「ウォンテッド」を演奏しており、今もYouTubeで耳にすることができる。また、高橋さん作曲の「ライディーン」と並ぶ初期の代表曲「テクノポリス」(79年)は坂本龍一がピンク・レディーのヒット曲を解析して作曲したというエピソードが当時から流布していたように、同時代に(時期を少しスライドして)社会現象を巻き起こした両者には意外な親和性があった。
YMOが「ウォンテッド」をカバーしていたことについて「それは、うかがったことはあります」という未唯mie。この日のライブではピンク・レディーのヒット曲を大胆なアレンジで12曲披露した。その中の1曲、「ウォンテッド」も元々のハードロックな曲調に和楽器やインドのタブラ、韓国のチャンゴなど世界の打楽器が絡み、米ファンクバンド「クール&ザ・ギャング」の代表曲「ジャングル・ブギー」のフレーズも巧みに引用しながら、 手だれのミュージシャンたちの見事なアンサンブルで観客を魅了した。
終演後、未唯mieは「ほんとに、どんなアレンジでも面白い方向にどんどん飛んでいけるので、やっぱり、ピンク・レディーは元の楽曲が素晴らしいんだなというのを感じさせてもらいました」と楽屋でライブを振り返りながら、そう実感を込めた。
YMOが45年前に「ウォンテッド」を斬新なテクノアレンジで換骨奪胎してカバーした精神が、こうして今も当人によって引き継がれていると記者は感じた。「ラスト・プリテンダー」の録音時に高橋さんと直接会うことはかなわなかったが、ピンク・レディーとYMOには同時代の表現者として純粋に「音楽」のみを通した接点が確かにあった。