馬の美しさを知っていますか?興奮、感動そして涙 新作『ドリーム・ホース』最後まで席を立たないで!

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「ドリーム・ホース」のワンシーン© 2020 DREAM HORSE FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION
「ドリーム・ホース」のワンシーン© 2020 DREAM HORSE FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION

 馬の美しさを知っている人はどれくらいいるのでしょうか?個人的な思い出話を語ると、幼い頃に父に連れられて行ったJRAで100円の馬券を〝買ってもらった〟「シンボリルドルフ」の活躍をテレビ画面で見てから、80年代の名馬たちであるオグリキャップ、トウカイテイオー、ライスシャワー、90年代には牝馬のヒシアマゾン、更にはナリタブライアンと魅了されたサラブレットたちが多々存在します。細い脚での美しいフォーム、風になびくたてがみ、近くで見た時の光沢のある毛並み、まさに惚れ惚れする美しさよ!それぞれ性格も違えば走りにも個性が出る。それは“馬に惚れた”という感覚でした。

 そんな“馬”により繋がった奇跡の実話を描いた映画「ドリーム・ホース」が現在、公開中です。物語の舞台はイギリスはウェールズの小さな村。夫と退屈な日々を送るジャン(トニ・コレット)は、ある日、共同馬主の話を聞き、競走馬を飼育して村の人達と組合馬主になる計画を思いつきます。

 しかも牝馬を買い、産んだ仔馬を競走馬として育てていくというゼロからのスタート。それはまるで子育てのようにも思え、やがて晴れ舞台に立つことになった馬(ドリームアライアンス)を共同馬主の皆と応援に行くシーンなんて、子供の発表会を見学に行く親のような面持ちで高揚感まで感じ取れます。

 本作の監督、ユーロス・リンは推測するに競馬が好きな人物なのでは。その理由は、レースのスタート時の歓声が聞こえなくなる演出、馬の脚を捉えたカメラとスローモーション、走っている際の馬の横顔や鼻息など、レースをしている馬の心情を捉えるようなカメラワークや編集と共に、ジャンたち村人達の歓喜の表情まで臨場感たっぷりに見せてくれるのです。

 しかも愛馬が危機に直面した際の対応について、皆で討論するシーンなんて胸に迫るものがあり、思わず涙が。けれどそこに映し出されている姿は、誰かと共に何かを育て、共に応援し、語り合い、喜びを分かち合うことの素晴らしさを知った中年の人々の愛する者への強い思いでした。2023年の幕開けにふさわしい興奮と感動と喜びを得られる実話。エンドロールにも幸せが詰まっている快作なので場内が明るくなるまで席を立たないで。

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