米津玄師の大ヒット曲、「Lemon」のPVを見たことはあるだろうか。男性的な服装に、黒のピンヒールを履いているのが非常に印象的なPVだ。
近年、ヒールの高いブーツがメンズファッションで流行したり、海外ハイブランドのコレクションなどでも男性がピンヒールを履くことが増えてきている。ハイヒールやパンプスは女性のアイコンとされるが、その認識が少し変わってきているようだ。
そんな中、メイドインジャパンで、男性でも履けるパンプスを作ろうと立ち上がったブランドがある。靴のまち、神戸にあるROCKET株式会社のwiDthlast(ウィズラスト)だ。
会長の東好哲さんは2006年頃に、ドラァグ・クイーンが経営危機の靴工場を救うというストーリーの映画「キンキーブーツ」を見て衝撃を受けたという。「男性(の足型)で、女性的なヒールのある靴を履きたい人がいるのなら、作ってあげたい!」という思いが湧き起こったそうだ。ただ、当時は靴底を作る仕事をしていたため、すぐに着手することができなかった。その後、オーダーメイドのインソールがヒットし、思いを形にできる環境が整ってきたという。
企画担当のCHIEMIさんにお話を聞いた。
「女性用に作られた靴を、ただ単に幅を広げたり高さを出せば男性の足型に合う訳ではありません。甲の高さも違います。例えばヒールやソールとのバランスも非常に繊細です。その為、開発には膨大な時間がかかりました」
中でも職人とのやりとりは大変だったという。多くの工業現場でオートメーション化が進む現代においても、靴制作の工程の多くは手作業である。紙型を作ったり、木型を作ったり、革を裁断したり、縫製をしたり……いくつもの工場で、さまざまな工程を経てようやく1足の靴になる。つまり、全ての職人が商品の意味を理解していないと最高の1足にはならないのだ。
「『どうして、こんなに大きなパンプスが必要なのか?需要があるのか?』なんて声もありましたね。LGBTの現状やパンプスの男性需要を理解していただく過程は、まさにキンキーブーツのようでした(笑)。時に意見がぶつかることもありましたが、今では新しいアイデアを形にしていける最高の関係となっています」(CHIEMI)
また、制作過程においてLGBT当事者からの聞き取りも行ったという。兵庫県のNPO法人MixRainbow(R)(正しくは丸の中にR)の協力を得て試着会を行ったり、LGBTの祭典でもあるレインボーフェスタ(大阪)、九州レインボープライド(福岡)にも出展した。
「トランスジェンダー女性の方が履きやすい、と喜んでくれるのが嬉しかったですね。また男性らしいおしゃれとして、パンプスに興味を示してくれる方も多かったです。『スラッと見える、いいね!』とみなさん笑顔でした。様々な方向に需要はあると、より確信しました」(CHIEMI)
筆者はトランスジェンダー女性である。女性として生活しているが、足は男性型のため、靴選びは少し面倒だ。足のサイズは24.5cmと男性にしては小さいが、厚みや幅の広さがある為、それに合わせると25.5cmで入らないことがしばしば。「おしゃれは我慢」と女性用のハイヒールを長年履き続けたため筆者の小指は潰れており、指の付け根あたりはいつもうっ血していた。そんな筆者も今回の取材を経てようやくストレスなく闊歩できる靴を見つけることができたのだ。
今後、wiDthlastを多くの人に知ってもらうべくSNSや映像制作にも力を入れる予定だという。靴で悩む人にも届いて欲しいと願うばかりである。
最後に東会長に、wiDthlastへの思いを聞いた。
「美しく魅せるのに、性別は関係ないと思っています。wiDthlastは靴の町、神戸の技術が詰まった本当にいい靴です。色々な人に履いてもらいたいです」
wiDthlast HP : https://width-last.com/
wiDthlast インスタグラム : https://www.instagram.com/widthlast_kobe/