【漫画】「このクスリを飲むと永遠に停止してしまう……」孤独な夜こそ読みたくなると評判の不思議SFが人気

橋本 未来 橋本 未来

 とあるドラッグの影響のため、生きるのではなく“永遠に停止することが美しい”という思想に染まった世界で、“動くことの美しさ”を捨てたくない女性が、さまざまな出来事に遭遇していくSF作品『神様は止まらない』。淡々と進む幻想的な物語の中で、生きる意味や幸福について考えさせられる作品性が評判を呼び、読者からは「美しい世界にうっとり」「救われた気持ちになった」という感想が相次いでいる。

 

 作者は、漫画専門古書店のまんだらけ発行のWebマガジン『ボヘミア』などで連載する、漫画家の夜野ムクロジさん(@yoru_no_mkrz)。独特なタッチで描かれる、この作品はどのような思いで誕生したのか。夜野さんに話を聞いた。

生きることを肯定したい

 木版画で漫画を描く、藤宮史さんの影響で現在の絵柄に辿り着いたという夜野さん。これまで数々の漫画新人賞に投稿をしながら、サブカルチャー寄りの媒体である青林工藝舎の『アックス』や、電脳マヴォなどで作品を発表してきたという。「サブカル寄りの媒体が多いのは、私自身ちょっと変わった感じのマンガが好きだからというのがあると思います。自分が描く漫画も、あんまりメジャー寄りではない……ので自然とそういったサブカル寄りの媒体に載るようになりましたね」

 そして、今回紹介する『神様は止まらない』については、自身がこれまでに抱いていた考えや希望を作品に託したと話す。「人間やその他の生物を含めて、生き物って『生きてる間は心臓が動いて血がめぐって動いているんだよなあ、それってすごいな』みたいな思いが根本にあって、だとしたら“停止こそが美しい”という思想に人間が染まってしまったら、ある種のディストピアになって面白いかも……というのが着想にありました。『停止が美しい』というのは『死が美しい』というのと同義だと私は思っていて、たしかに死は美しいけど、生きてるなら動くことを肯定してみたいなと思ってこのマンガを描きました」

 この作品の魅力は、全体を通して流れる“心地よい暗さ”にある。深夜ラジオを聴いているような雰囲気が流れ、独特な作画の上手さも相まって、最後まで一気に読み進めてしまう。その点について、「物語を生み出す上で大事にしているのは、いかにキャラクターが面白く生きるか、ですかね。暗さや神秘的な感じは、私自身がそういうのが好きだから、どうしてもそういう感じになってしまうんです。だけど、基本は“キャラクターが生きるように”を心がけて物語を考えています」と話してくれた。

 そして最後に、現在連載中している作品の魅力を語ってくれた。「今、私が連載しているWebマガジンの『ボヘミア』は、変わったマンガがたくさん載ってて『変なマンガが読みたい!』という人にすごいオススメの媒体です。この雑誌に『僕たちはいつだって死を忘れさせてくれる美しい情景を探しているんだ』という作品を連載させてもらってます。このマンガは、ケダモノみたいな妹・メメを中心とした青春みたいな物語です。自分にしては、かなり明るい物語になっていると思います。このマンガを読んで少しでも元気になってもらえたら嬉しいです」。年末年始、一人で過ごす寂しさを感じる人は、ぜひこの作品を手に取り、“心地よい暗さ”の魅力に触れてみてはいかがだろうか。

■夜野ムクロジさんInformation
 
▶賞歴 /
2016年 講談社モーニングゼロ新人マンガ賞にて奨励賞受賞。
2020年 太田出版エロティックマンガ賞にて大賞を受賞。
2022年 青林工藝舎アックスにて林静一個人賞を受賞。
 
▶Twitter /
https://onl.tw/F5fA3KA
 
▶夜野さんが連載するWebマガジン『ボヘミア』 /
https://onl.tw/nUcM2KC

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