あがた森魚 なぜゲタ履きでテレビ出演したのか?「赤色エレジー」から50年、お茶の間に登場した異才

北村 泰介 北村 泰介
デビュー50周年を迎えた今もギターを手に歌い続ける、あがた森魚(C)Gan極楽商会
デビュー50周年を迎えた今もギターを手に歌い続ける、あがた森魚(C)Gan極楽商会

 半世紀前、ジーンズにゲタ履きで大正ロマンあふれる曲調の歌をテレビで熱唱し、鮮烈なインパクトを残したシンガー・ソングライターがいた。その名は、あがた森魚(もりお)。1972年のデビュー曲「赤色エレジー」は60万枚を超える大ヒットとなり、時代のちょう児となった。

 それから50年、74歳の誕生日を迎えた9月には集大成的なライブ「50周年音楽會 渋谷公会堂」を開催し、伝記本「愛は愛とて何になる」(小学館)の刊行と共に、これまでリリースしたアルバム57枚、733曲がサブスク解禁された。膨大な活動歴の中から「お茶の間」に露出した活動の背景について本人から話を聞いた。

 連合赤軍あさま山荘事件、沖縄返還、日中国交正常化…といった「戦後の分岐点」となる出来事が続いた72年。日本の音楽シーンでは、吉田拓郎(当時・よしだたくろう)の「結婚しようよ」が大ヒットし、荒井由実(後の松任谷由実)がシングル「返事はいらない」でデビューするなど、自作曲を歌うミュージシャンの表舞台への台頭が時代の移り変わりを感じさせた。

 「テレビには出ない」という風潮のあったフォーク歌手の中、あがたは積極的に出演した。朝や昼のワイドショー、歌番組にバラエティー…。芸能界で隆盛を極めた渡辺プロダクションに一時所属し、「新春かくし芸大会」に出たことも。深夜番組「11PM」では司会の大橋巨泉さんが「ゲタ履き」を面白がり、各局から「ゲタを履いて来て出てください」とリクエストされたという。

 「そもそも、ゲタを履いたのは、ズック靴のカカトがつぶれたのしかなかったから。どうしよう…と思いながらゲタを履いて行った。11PMは『昨今 若者アングラ事情』みたいなタイトルだったかな。アングラ芝居や大道芸をやっている人が出てきて、俺もその一環で1曲だけ歌ったんだけど、たまたま履いていたゲタが象徴的だったというか。その辺の路上で歌っているような若者がテレビに出てきたことの落差があって、その後も歌謡番組に出れば出るほど、その落差が新鮮になったということですね。俺としては狙ったわけでもなく、『とにかく歌えるぞ』という好奇心が先にあった」

 環境は激変した。

 「青天の霹靂(へきれき)だよね。俺個人は何にも変わらなくて、いつも通りなんだけど、『赤色エレジーのあがた森魚』というのが、そこで始まっちゃったわけですね。そこから歌以外のこともやってみようという、それは不遜な思い上がりなんだけど、何でもやれると思った。テレビだけでなく、東映に呼ばれて『女番長(すけばん)ゲリラ』(72年公開、鈴木則文監督)という映画に出たり、森繁久彌さん主演の舞台(74、75年上演の「にっぽんサーカス物語『道化師の唄』」)にも出た。『小沢昭一的こころ』じゃないけど、時代観察と共に、芸能への郷愁が僕の中にあった。片岡千恵蔵さんとか東映のチャンバラ映画で僕は育ったから、『ついに東映から来たか!』って大はしゃぎでしたよ(笑)」

 本人役で出演した「女番長ゲリラ」では、盟友の死を悼み、夕焼けの河原で「赤色エレジー」をギターで弾き語るシーンが郷愁を誘う。

 「ささやかな結論を言うと、やっぱり、いい歌だったんだね。1970年前後の学生運動が一つ終わり、三島由紀夫が自決し(70年)、文化のちょうど変換期、境目のようなところで、空白の絶妙な瞬間があって、この歌がはまったんじゃないかと」

 80年代のテレビ出演では、吉永小百合主演のNHKドラマ「夢千代日記」3部作(81-84年)でのヌード劇場の照明係役が印象的。同作では74年発売のセカンドアルバム「噫無情(レ・ミゼラブル)」(松本隆プロデュース)に収録された「昭和柔侠伝の唄(最后のダンスステップ)」でデュエットした緑魔子と再び共演した。時が流れた今も「魔子さん…大事な表現者です。また一緒にやりたいですね」と語る。また、テレビアニメ「うる星やつら」のエンディング曲「星空サイクリング」を自身のバンド「ヴァージンVS」として82年にリリース。「赤色-」から10年後、次世代に届いた同曲は、今年発売された4枚組ベスト盤「ボブ・ディランと玄米」にも収録された。

  俳優活動は今も続き、最新作では11月24日配信予定のNetflixオリジナルドラマ「First Love初恋」に出演。映画監督としては「僕は天使ぢゃないよ」(74年)、「オートバイ少女」(94年)、「渚のロキシー」(99年)に続く新作として、来年の公開を目指してドキュメンタリー映画を製作中だ。もちろん、音楽活動は言うまでもない。50年の節目も通過点。ひょうひょうと表現の海を漂い続ける。

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