永六輔さんに支えられた伝説の女性芸人が公演ラッシュ〝ストーカー曲〟で話題 雨中の神社でライブ決行

北村 泰介 北村 泰介
「OL日記」と題したひとりコントで熱演するオオタスセリ。唯一無二の女性ピン芸人だ
「OL日記」と題したひとりコントで熱演するオオタスセリ。唯一無二の女性ピン芸人だ

 放送作家、作詞家、タレントなどマルチな活動で昭和の芸能史に大きな足跡を残した永六輔さん(享年83)が亡くなって6年。その永さんが生前、自身もファンとしてサポートしてきた女性芸人がいる。その名は「オオタスセリ」。1980年代から40年近く地道に活動してきた「シンガー・ソングライター芸人」だが、この10月から年末にかけ、舞台やライブを精力的に行なうということで、9日に東京・世田谷区の太子堂八幡神社で開催された「奉納・独演会」に足を運んで話を聞いた。

 ちなみに、スセリは本名で「寸世里」と書く。80年代に登場した女性芸人として、同じ1960年生まれで、同じ事務所(太田プロ)の山田邦子が脚光を浴びていた頃、オオタはお笑いコンビ「コントペコちゃん」として「オレたちひょうきん族」(フジテレビ系)などに出演していた。2000年にフリーとなり、ピン芸人としてコントライブを行なう一方、06年に発売した自作曲「ストーカーと呼ばないで」が注目された。近年も自身の作演出によるオムニバス・コント舞台「スセリ☆台本劇場」を主催し、ピンク・レディーの未唯mieら多彩なゲストと共演している。

 今月12日から16日まで「ひとりでできるもん!」(東京・シアター風姿花伝)と題した舞台に出演。さっそく、本人にインタビューした。

 -同公演のサブタイトル「古典落語における男尊女卑に物申す」という文言が気になった。

 「漫画家であり、小説『ファザーファッカー』で評判を呼んだ内田春菊さんの書き下ろしです。彼女には古典落語の中の女性の描き方が『ハラスメントに満ちたもの』に映ったようです。『女房を質に入れてでも』『女房と畳は新しい方が…』などの軽口だけでなく、人情話とされている噺(はなし)の中には父親のせいで吉原に身売りをする娘が出てきたり、夫からのDVを受けても、ひたすら復縁を願ったり…。『こんな話、いくら古典でもひどすぎる!』との憤りが原動力になってこの作品を書いたそうです。ちなみに春菊さんは立川談志師匠に弟子入りしていて『立川御春の方』という高座名もお持ちです」

 -その内容は?

 「児童支援施設で育った女性が『落語大学』に進学して、そこで落語を通して、自分の心の病を克服していくお話です。こう書くとヒリヒリした印象になるかもしれませんが、コメディです。私は落語大学の先生役で、女性蔑視のエピソードをクールに歌や笑いに変えていけるように演じます。確かに古典落語は『古典』ですから、昔の話として理解しますが、現代でそのような話を『おかしい!』と思っても声を上げる人がいませんでした。そこに春菊節がさく裂した作品です」 

 -今後について。

 「言論の締め付けが厳しくなった世の中ですが、ライブでは心のモヤモヤや人生のウツウツなどを笑いに変えて、言いたいことを描いています。時代はテレビからネットに、雑多な大人数から同好の少人数に移っています。私の需要がなくなっても、近所の人たちにお茶やお菓子をふるまって、集会所とかで見ていただくかもしれません。目の前の人が笑ってくれればそれでよいです。お客様たちの『楽しかった~!』『元気出た~!』の一言が『やってきて良かった』の自己肯定感につながるのが今の私です。同じ家の中にいても、家族同士がLINEでやり取りする世の中は効率がいいし、摩擦は少ないかもしれませんが、昭和な私はあえて顔つき合わせて、事を荒立てて、違和感をコメディに描いていきたいです」

 -永さんへの思いを。

 「永さんのラジオに出していただき、(自主制作の)CD-Rをかけていただいたことがキッカケで『ストーカーと呼ばないで』という曲でビクターからメジャーデビューできました。CDの発売前に放送自粛になりましたが、永さんのお供で『徹子の部屋』で歌うことができ、1万枚以上売り上げてオリコンにも入りました。永さんには全国の大きい劇場から小さい集会まであちこちに連れてっていただき、また、私のコントライブにも必ず出てくださり、小劇場でトークをしてくださいました。毎年、お命日の7月7日の七夕には『繋げ!永六輔スピリッツ!』と称しての追悼ライブを主催しています。永さんのように、目の前の人の心にストン!とくるような舞台ができたらと思っています」

 11月13日には放送作家の奥山コーシン氏、内田春菊氏とのトークと弾き語りのライブ「音楽道」(東京・大森「風にふかれて」)、12月26-28日は「台本劇場」(東京・下北沢「劇」小劇場)、同29日には「音楽寄席」を浅草・木馬亭で開催予定だ。

 9日、冷たい雨の降りしきる中で決行した太子堂八幡神社での奉納舞台では、着物姿でギターを抱えて持ち歌を披露。ファンや参拝者ら50人ほどが立ち見で傘をさし、50分間のステージ見入った。そのプロ意識が「場」に伝わっていた。

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