彼岸花にまつわる不思議な伝説 猛毒で小動物を駆除するため土葬で活用、尼寺では男性の侵入防止など

深月 ユリア 深月 ユリア
「お彼岸」の頃、真っ赤に咲く彼岸花。その妖艶で情熱的な見た目と共に数々の伝承がある
「お彼岸」の頃、真っ赤に咲く彼岸花。その妖艶で情熱的な見た目と共に数々の伝承がある

 秋の「お彼岸」が近づいてきた。この時期に咲く象徴的な植物が「彼岸花」だ。ジャーナリストの深月ユリア氏が彼岸花にまつわる「伝説」についてまとめた。

  ◇    ◇    ◇

 古来、秋分の日は「この世とあの世が最も近く、通じやすい日」と考えられていた。仏教において、ご先祖様の魂が悟りと安らぎの境地に至る時期が「彼岸」とされている。

 今年の秋の彼岸は9月20日から26日だが、この頃に唐突に花茎を伸ばして真っ赤な花を咲かせる彼岸花。彼岸花の別名は曼珠沙華(マンジュシャゲ)だが、釈迦が法華経を説いた際に、天から舞い降りた 「天上の花」の1つが曼珠沙華だとされている。

 しかし、その特異な咲き方や鮮血のような色の花はしばしば不気味がられ、 古来より「彼岸花を家に持って帰ると火事になる」や「採ると家が火事になる」という迷信があった。彼岸花は有毒植物であり、子供が警戒するように、大人たちがこのような都市伝説を作った。植物学者の研究によると、彼岸花は、毒が花、葉、茎、根と全ての場所に含まれている全草有毒(ぜんそうゆうどく)である。

 「株式会社よりそう」(本社・東京都品川区)が運営する葬儀サービス「よりそうお葬式」のホームページ(HP)によると、実は彼岸花を墓地に植える理由は、土葬された死体をモグラやネズミなどの動物が掘り起こさないため、猛毒で動物を殺すためであったそうだ。

 というのも、葬儀葬祭事業を運営する株式会社「家族葬のファミーユ」(本社・東京都港区)のHPによると、「現在の日本では火葬が主流だが、神道では『土に還る』という考え方があり、古来、土葬が行われていた」という。また、「よりそうお葬式」のHPによると、「火葬の風習は飛鳥時代(紀元600年頃)に仏教が布教してから始まり、長らく土葬と火葬が混在していた。しかし、明治時代にはコレラなどの伝染病がまん延し、火葬が推進され、戦後、1948年に『墓地、埋葬等に関する法律』が制定され、環境衛生などの理由から火葬が主流となった」という。

 だが、法律の制定後、直近においても、土葬をするケースが一部にある。土葬の葬儀会社は少ないものの、ネット検索をするといくつか出てくる。つまり、土葬は直近でも存在しており、彼岸花には触れる程度では問題ないが、動物が食べてしまうと「彼岸」に連れて行かれかねないほどの猛毒が含まれているのだ。

 植物学者たちの研究によると、特に「鱗茎(りんけい)」と呼ばれる球根にはリコリンという大量の猛毒が含まれ、 モグラやネズミなどは彼岸花の球根1つで1500匹が死んでしまうほどだという。人がリコリンを摂取した場合も、嘔吐、下痢、呼吸困難を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもある。

 日本古来の食養学、本草学、薬食学を研究した日本の健康食としての料理の総称「武士の食卓」創始者で日本文学・薬草学にも詳しい緋宮栞那氏に筆者が取材したところ、同氏は「彼岸花の真紅の情熱的な色には、情熱的な色香を感じますね。古来より、報われない恋愛によって、女一人取り残された際、尼寺にて一生を送り仏に帰依する風習がありましたが、その尼寺の周りに彼岸花が咲いていました。それも、尼寺への男性の侵入を避けるためだったという言い伝えがあります。とても奥が深い、魅惑的な花で先人達の人生訓が感じられる花とも言えるでしょう」と解説した。

 真っ赤な彼岸花は妖艶で情熱的にも見えるが、「天上の花」として距離感を保って観賞する方が無難かもしれない。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース