「ランドセル重たい問題」対策商品がカンボジアの小学生に 現地では「重さ」より「暑さ」対策で活用

北村 泰介 北村 泰介
贈られたラクサックを掲げるカンボジアの小学生たち。「重さ」より「暑さ」対策で歓迎されているという
贈られたラクサックを掲げるカンボジアの小学生たち。「重さ」より「暑さ」対策で歓迎されているという

 日本の学校教育現場では「ランドセルが重たい問題」が起きている。その対策として、国内のメーカーでは子どもたちの負担を軽減する代替商品が開発されているが、その役目を終えた後も海外の子どもたちに活用してもらう動きが出てきた。カンボジアに寄贈するプロジェクトについて、担当者に話を聞いた。

 小学生の3人に1人が「ランドセル症候群」に悩まされているという調査結果が、昨年、学校用水着開発の大手「フットマーク」(本社・東京)から発表された。自分の体に合わない重さや大きさのランドセルを背負って通学することによる心身の不調により、肩こりや腰痛などや、通学自体を憂鬱(ゆううつ)に感じることもあるという。教科書を学校に置いて登下校する通称「置き勉」も、脱ゆとり教育によって、禁止されている学校も多い。

 荷物が軽減されないのなら…ということで、フットマークでは重量を緩和する工夫を凝らしたランドセルに替わる通学用バッグ「ラクサックジュニア」を開発した。重量のある教科書類を背中側に密着させて固定することで、背負った時に軽く感じる機能を持つ。ただ、同商品には低学年用と高学年用があり、成長につれて買い替えることから、3年間使ったものは、いわゆる「おさがり」のできる対象がいなければ、放置か廃棄となる。そこで、同社では交流のあるカンボジアに対し、NPO法人「JIYU」を通じて同国の子どもたちを対象に「ラクサックを贈ろうプロジェクト」を実施する。

 JIYUは2007年に設立され、教育を受けられない環境にいる子どもたちに、教育資金、文房具、図書等など提供して学業の支援事業を行う団体。そこにはランドセルなどの学業用のバッグも含まれている。一方、フットマークはカンボジアに対して、水泳振興のサポートや体操帽子の提供、また、同国内では小中学生を対象とした職場体験、大学への講義活動など教育の分野においてさまざまな活動を行ってきた。

 同社は今回のプロジェクトについて「卒業後の役目を終えたランドセルについては一般的には様々な考え方があります。例えば記念として保管、リメイクして革小物に生まれ変わるなど。そしてまた誰かの役に立つよう寄贈をする選択肢もあります。まだ使用できるラクサックについても第二の使い道を模索した」と説明。その結果、JIYUとのタッグで取り組みを始めた。同社の担当者は「2020年にラクサックジュニアを発売しましたが、できれば、破棄するのではなく何かのお役に立ちたいという思いはありました」と原点を振り返る。

 日本では「重量化」が社会問題にもなったランドセル。では、カンボジアのランドセル事情はどうなのだろうか。

 JIYUの担当者は「現地で日本のランドセルは中古でも高値で売られているが、貧困地域の生徒たちには購入できるような状況ではない。そもそも教育を受けることもままならない中で学用品を購入できる余裕はないです。また、ランドセルを寄贈したところで親に売られたりしてしまう可能性もあるため、そういうことのないような地域を選んでいる。大体がフリースクールやNGO団体が行っている施設において無償で教育を受けています。教育を受ける意欲が非常に高いため、学用品が不足している現状です」と指摘した。

 「重たい」以前の問題だ。カンボジアでは「教育をうけることもままならない」という社会状況がある以上、ランドセルの重たさを緩和した商品であるラクサックの利点はどこにあるのだろうか。

 JIYUの担当者は「カンボジアに限りませんが、アジアには比較的、熱帯地域が多く、支援先でもほぼほぼ暑い地域であるため、軽く通気性が良いカバンは非常に適していると言えます」と、軽量ポリエステル製であることが暑さ対策につながる点を指摘。その上で、「以前ラクサックを寄贈していただいた際にも子どもたちはすごく喜んでいました。毎回寄贈している現地の子どもたちは本当にキラキラとした笑顔でランドセルを受け取ってくれます」という。

 日本国内でのラクサックに対する反応や今後について、フットマークの担当者は「貸し出しサービスも実施しておりますが、多くの方にご利用いただいております。すでに革のランドセルを使用しているものの、いざ学校へ登校してみると重くて…といった悩みを抱えての申し込みも多くいただいております。さらに改良を進め、9月には新モデルを発売する予定です」という。同社では「これまでの活動とベースは変わりませんが、ラクサックを通じて現地の方々の教育支援のサポートができれば」と期待を込めた。

 日本では「重さ緩和」がテーマだったが、カンボジアでは「暑さ対策」にも対応。方向性は違っても、子どもにとって利点があるという一点において、同商品は活用されていきそうだ。

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