「鎌倉殿」小栗旬演じる北条義時に“仏の顔と鬼の顔” 木曽義高、藤内光澄の殺害には関与なし 識者が語る

濱田 浩一郎 濱田 浩一郎
イメージです(tk2001/stock.adobe.com)
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 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第17回は「助命と宿命」でした。今回も上総介広常の暗殺に続いて悲しい回となりました。木曽義仲の長男・義高を殺害せんとする源頼朝。ドラマではその役目を小栗旬演じる主人公・北条義時が頼朝から命じられますが『吾妻鏡』(鎌倉時代後期に編纂された歴史書)等を見ても、義高殺害に北条義時や北条氏が関与していたとする記述はありません。後で詳しく説明しますが、全然別の武士がその役目を果たしています。

 いつものように、私の知りうる史資料の中から説明します。まずは、なぜ頼朝は木曽義高を殺そうとしたのか?

 1184年の正月、木曽義仲は頼朝が派遣した軍勢(源範頼や源義経)に攻められ敗死してしまいます。頼朝は将来の禍根を断つため、義高を殺害することを決めるのです。『吾妻鏡』には、父を殺された義高の無念を思うと今のうちに殺した方が良いとの頼朝の判断があったと書かれています。頼朝は、義高殺害を武士に命じます。が、その密談を聞いていた御所の女房がいて、大姫に義高が狙われていることを告げる。

 義高は女房姿、つまり女装して、周りを女房らが囲むかたちで、屋敷を脱出。馬を使い逃走するのですが、その馬の蹄(ひづめ)には真綿を巻いて、音を消す念の入れようでした。とはいえ、いつまでも隠し切れるものではありません。夜になると、義高がいないことが発覚してしまいます。そして堀親家ら軍兵を派遣し、義高を見つけ次第、殺すように命じるのです。大姫は逃亡発覚を知り慌てるとともに、魂を消すと表現されるほど憔悴してしまいます。これが1184年4月21日のことです。

 それから1週間も経たない4月26日、堀親家の部下・藤内光澄が戻ってきて、入間河原(埼玉県狭山市)において、木曽義高を討ったことを報告します。義高は埼玉の方まで逃げていたのですね。義高が死んだことは、大姫には秘密にされましたが、直ぐに分かってしまい、そのことを知った大姫は嘆き悲しみ、水も喉を通らない状態となってしまう。姫の様子を見た母・政子も悲しみを深くしたようです。いや、御所にいる多くの男女が義高の死とそれを悲しむ大姫を見て、哀れに思ったといいます。本当に可哀想ですよね。

 5月1日には、義高の残党たちが、甲斐や信濃に拠って叛逆を企てているとの噂が入ります。『吾妻鏡』には「義高が伴類」と記されていますが、これは義高の残党というよりも、木曽義仲の残党・家臣と見ることができるでしょう。よって、頼朝はこの残党を討つため、軍勢を派遣することを命じ、小山・宇都宮・比企という有力御家人が討伐に向かいます。

 同じく相模・伊豆・駿河・安房・上総の御家人たちも5月10日には出兵するように、和田義盛・比企能員に命令があったといいますから、広範囲に動員令があったことが分かります。頼朝は、木曽の残党勢力と義高が結びつくことを恐れ、非情な決断を下したのかもしれません。

 義高を討った藤内光澄は、のちに斬首される事になりますが、これには北条政子の深い怒りがあったようです。ドラマでは藤内斬首に政子は直接的に関与していないような描き方でしたが、『吾妻鏡』には政子の憤りにより、藤内が斬首されたとあります。

 また、ドラマでは藤内斬首にまで北条義時が関わっていましたが、実際にはそれを示す史料はありません。義時の藤内斬首や一条忠頼を殺害せよとの頼朝の命令に苦悩する姿が描かれていましたが、『吾妻鏡』から義時の性格を分析するに、仏の顔と鬼の顔を持っていたように私は感じています。

 権力闘争の場においては鬼の顔、それ以外は仏の顔(困っている人を助けるなど)を見せているように感じます。もし仮に義時が頼朝から藤内斬首を命じられても、義時は「鬼の顔」で処刑したと思います。

 ちなみに、解説で「史実では…」と説明すると、「この時代のものは資料も少なく、客観性にかける面もある」「資料を読み解いて各々が各々なりの解釈がある」「ドキュメンタリーをやってるんじゃないんだから」「史実では?と声たかだかに主張するのは心の狭さを感じる」とのご意見を頂戴することもあります。

 それらの中には正当なものもありますが、見解を述べますと、私は「史実では…」と声高に主張したい訳ではなく、それで悦に入りたい訳でもないんです。史実と違うからといって、ドラマや脚本を批判したい訳でもない(逆にドラマを毎週楽しみに視聴してます)。ドラマなのだから史実と違うのは当たり前のことだからです。また、私の解釈や意見が絶対に正しいなどと思ったこともありません。私は限られた史資料のなかで、微力ながら、私見を述べているだけです。

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