活動50周年を迎えた声優・ナレーターの若本規夫(76)が「あと10年、一線で」と、第一線でのさらなる活躍を宣言した。フジテレビ系「人志松本のすべらない話」のナレーションや、アニメ「サザエさん」の穴子役で知られるレジェンド声優は、25日に初の自伝「若本規夫のすべらない話」(主婦の友社)を刊行。よろず~ニュースの取材に、日課の鍛錬メニューを明かし生涯現役に自信を見せた。
76歳とは思えない声量に、ただただ圧倒される。声の張り。べらんめえ口調。無頼漢、という言葉がぴったりハマる。「それこそ無頼漢だよ。声だけだからね。声優は。俳優は身ぶりがあるけど、声だけでその役柄を典型的に視聴者の耳に、浸透していくっていうのは並大抵の声だとだめなんでね」。刀鍛冶が熱い鉄を打つように、50年の歴史が〝若本節〟に磨きをかけた。
1日3時間のトレーニングを、日課にしている。呼吸力を鍛える呼吸法に1時間半。発声練習で、また1時間半。夜の仕事を極力入れないなど、徹底した体調管理も欠かさない。まさにレジェンド、いや鉄人だ。「鍛錬だな。鍛錬がどこまでやれるかで決まってくると思うんでね。昔はもっとやった。鍛錬しなかったら終わる。そういうものなのよ」と力を込めた。
鍛錬は、50歳目前で始めた。天命を知る年齢になり、新規の仕事がパタッと来なくなったことが転機になった。依頼が来なくなった理由を突き詰める。「分かったのは、僕の演技が中心をよけて堂々めぐりしてると。形はそこそこいいんだよ。サマになっているけど、中心がないわけで。へそがないっていうかね。空洞ですよ」。裏がにじみ出るような、深みが感じられるような声づくりの必要性に気づいたという。
すべてを捨てる決意で、一から声づくりの鍛錬に励んだ。声優になって25年。これまでのキャリアに革命を起こした。「一切これまでのものを捨てて、全部捨てて。捨てないとだめだから。一からやり直してね。50歳ぐらいまでは多少なりとも鍛錬やってたけど、そんなものは革命的な鍛錬じゃないんだよ」と当時を振り返る。呼吸法、大道芸、古神道の祝詞(のりと)の奏上、浪曲、尺八…。〝ピンと来た〟さまざまな習い事を見つけては、弟子入りした。
警視庁の警察官から転身した異能の声優。学生運動が盛んだった1960年代には、特別機動予備隊として訓練も受けていた。電車の網棚から落ちてきた新聞で読んだアテレコ教室に即応募したことがきっかけで、現在の第一歩を踏み出す。天職を決めたひらめきと瞬発力が、突破口になる。「習い事は全部、即だから。これいいな、と思ったらすぐ電話して。しばらく行ってみる。声優は瞬発力だから」と危機を打開していった。
大道芸の師匠のもとには5、6年通い、口上を学んだ。地べたの声、芸というものが、今後の声優生活で必要になるものと感じたという。「地べたの土間の何もないところで、むき出しの裸のセリフ回しというのかな。そういうものが必要だと思った。自己満足的にマイクの前で気取ってね。〝俺の声、どう?ほれた?〟みたいな。そんなんじゃだめなんだよ。響かないんだよ」と語気を強めた。
すぐには結果が出なかったというが、3~4年経つと成果が出てきたという。「現場で裏打ちされたものが出てくるんだよね。モニタールームを見ていると(スタッフが)ギョッと、びっくりしているのがあったりして。これは気に入っているんだ、というのがわかるようになってきた」。ナレーターを始めたのもこの頃。手に入れた〝すべらない声〟を武器に、バラエティー番組、CMのナレーションで新境地を切り開いた。
マネジャーは「50歳とか60歳とかの時も、10年後、もっとすごくなると言ってくれた。その通りになっている」と舌を巻く。圧倒的な鍛錬の時間と質量で、進化し続ける76歳。「このままの鍛錬でいくと、あと10年は大丈夫かなと思う。10年以降となると、ちょっとわからないけどね」。「すべらない―」のナレーションのように、若本が語る話は10年後、すべて実話にな~る~。