難聴であることを示した男性のタトゥーが話題「欠陥は個性。前を向くしかないっしょ!」

野中 比喩 野中 比喩

難聴であることがわかるよう、右耳のうしろにタトゥーを施した男性がSNS上で注目を集めている。

「僕は生まれつき右耳が聞こえません。
たまに不便ですが、不幸だと思ったことはありません。
むしろ、そのおかげでこんな個性的なタトゥーを入れることができた。欠陥は個性。前を向くしかないっしょ!」

と投稿したのはいいださん(@iida_shi)。

障害をポジティブに…言葉ではたやすいがそれを体現するのは難しいことだ。今回の投稿についていいださんにお話を聞いた。

野中比喩(以下「野中」):祖母が加齢による難聴で、私自身も片耳の一部の周波数が聞こえづらいです。いいださんの投稿に力をもらいました。難聴に気づかれたのはいつでしょうか?

いいださん:小学3年生のときに学校で受けた健康診断でした。それまでみんな僕と同じように右耳は聞こえないものだと思い込んでいて、診断するまで何も不思議に思っていませんでした。それまでなぜか一度も聴力検査を経験してこなかったんですよね。自分にとっては当たり前だったので、診断結果が出て「逆にみんな両耳聞こえるの!?」という驚きがありましたね。

右耳が聞こえないことがわかって数ヶ月後、1日学校を休んで東大の病院で検査を受けました。病名は覚えていませんが、自営業で忙しいはずの父に連れて行ってもらったのを覚えています。

野中:ご苦労はありませんでしたか?

いいださん:人間関係には苦労しました。僕は19歳のときに仕事を始める前まで滑舌が悪く、人の顔色をうかがって自分の意見が言えませんでした。人とのコミュニケーションを極力避けるようにしていました。

人に対して苦手意識があったため、初めて会った人に自分から右耳が聞こえないとも言えず、右耳から声をかけられても「こっちの耳が聞こえないんで」と言えず適当にあしらっていたんですね。初対面の人には「右耳のこと伝えた方が良いかな?でももう会わないだろうしな」なんて思ったりしていました。

片方の耳が聞こえないのは、他人が見てもわかりません。それをきちんと伝えないといけないなと思うようになったのは、ガヤガヤした居酒屋であまり得意ではない先輩と話した時でした。先輩が右から話かけてくるものだから適当にリアクションして話を終わらせようと思ったら、「どう思う?」と言われ耐えきれず「すみません、実は右の耳が聞こえないので、左からもう一度話してもらえませんか?」と言ったら、めちゃくちゃ怒られたんです。

野中:居酒屋や人の多いところはただでさえ聞こえにくいですからね。

いいださん:そんな後ろ向きな性格を変えてくれたのが、19歳に始めた仕事でした。いま私は個人事業主としてアニメーション制作をしているのですが、19歳から2年間を京都嵐山で人力車の俥夫として働いていました。

俥夫はよく「引っ張るの大変ですね」と言われますが、引っ張ること自体はあまり大変ではありません。1番大変なのはコミュニケーションです。営業してお客様を作らないといけせんし、ご案内するにしてもトークでお客様を満足させないといけません。私はこの仕事のおかげで良好な人間関係の築き方やコミュニケーションについて学び、滑舌の悪さや人嫌いを克服し、どんな人にもタイミングを伺って右耳の話をするようになったんです。

野中:努力されたんですね。

いいださん:右耳が聞こえないことは自らの人生について考えるきっかけになりました。右耳が聞こえないのは、つまり左耳が聞こえなくなると自分の世界に音がなくなるということ。いつそうなっても良いように、いろんな経験をして楽しもうという意識が強くなりました。何かを後回しにすると「もし次行く時に左耳も聞こえなくなっていたら嫌だな」と考えてしまいますね。

野中:タトゥーを入れられた転機はどこにあったのでしょうか?

いいださん:右耳にタトゥーを入れたのは2月ですが、実は一昨年の10月頃にタトゥーを入れる決意をしていました。きっかけはウェブニュースで「少女は左耳にタトゥーを入れた。いつかこの方法が革命に変わるかも。」という記事を読んだことでした。率直に「俺も入れたい...!」と思いました。

ただビビりなので、友達に「タトゥーを入れようと思ってるんだよね〜」と言いふらして、ネガティブな意見が多ければ入れないつもりでした。結果、否定する人は1人もおらず、みんな「格好いいよ!」と言ってくれました。でもタトゥーは身体に一生残るものなので、その時はまだ抵抗がありましたね。

野中:温浴施設を利用しにくくなったり、不便な要素も考えてしまいますよね。

いいださん:結局、昨年10月から定住しているジョージアのタトゥー屋で入れてもらいました。値段は50ラリ、日本円にすると1900円ほどでした。そこで何度もタトゥーを入れているジョージア人の友達におススメされたので、迷うことなくそのお店にしました。

野中:友人のおススメならメリットデメリットを聞けますし心強いですね。

いいださん:ジョージアでタトゥーを入れたのは、日本語が通じない人と会話するときに言葉で右耳が聞こえないことを伝えるのが大変だと痛感したからです。今は右耳を見せるとみんな僕の左側に移動してくれます。

野中:今はポジティブな印象のいいださんですが、ネガティブな過去を乗り越えられて素敵だなと感じます。いいださんのポジティブさの秘訣を教えていただけませんか?

いいださん:まずは自分を一番愛することを心がけています。自分の行動が幸せと感じるか、心地よいと感じるかを大事にしています。

僕は元々ネガティブな性格の持ち主でした。芸能人やモテる同級生と自分を比べていましたね。背は低いし、一重だし、滑舌は悪く、勉強はできないし、右耳も聞こえない。高校時代は演劇部にいたのですが、音痴すぎて顧問の先生から「お前は歌うな!音痴!」と怒られ、台本が変わったこともありました。「俺はモテない。人より劣っている」そんなことばかり考えて、痩せようとしたり、アイプチをして高校に登校したりしていました。

でも、きっかけは忘れましたが、どこかのタイミングでコンプレックスを克服することを諦めました。人と比べることを辞め、コンプレックスも全て個性だと受け入れ自分を愛そうと。すると自然と物事をポジティブに捉えられ、自信を持って人と接することができるようになりました。

次にもっと自分を好きになるために自分磨きをしようと思うようになり、筋トレを始めたり、能動的にコミュニケーションするようになりました。「自分を愛すること=自分勝手」ではありません。周りの人を不愉快にする自分なら愛すことはできません。結果的に人に優しくなれたんです。

日本では「こうでないといけない」という思想が強すぎるとジョージアに来てから感じます。男性は身長が高く腹筋が割れていて高学歴であるべき、女性は細身であるべき…きっとそれってメディアに出てくる人たちがそんな容姿ばかりだからと思うのです。彼ら彼女らを正解と思い込んで自分を比べるとどんどんネガティブになります。

でも、目が細いから人一倍笑顔が引き立つ、デコが広いから人一倍表情がわかりやすい、滑舌悪いからウケを取りやすい、モテないから1人の女性を大事にしようと思える…コンプレックスは幸福のチャンスです。

ジョージアで出会った友達に「目を二重にしてかっこよくしたいんだよね〜」と話したら「なんで!?一重のキリッとした方がかっこいいじゃん!もったいないよ」と言われました。一重がコンプレックスだった僕にとってその言葉は嬉しかったですね。環境を変えれば欠陥だと思っていたことが魅力になることがあるんです。有名な人の容姿が必ず正解ではありません。

野中:そういった思いが今回の投稿にも反映されているわけですね。

いいださん:僕のタトゥーが、自分にコンプレックスを抱えている人に伝わればと思います。人と違っていることをコンプレックスだと思い込み、本来持っているポテンシャルが無駄になるのはもったいない。

僕は昔から伝え続けられてきた倫理観がない偏見が大嫌いです。「良い大学へ入って良い会社へ就職するべき」「マイホームを買って子供を産むべき」「子は親の言うことを聞くべき」「お金を儲けることは悪だ」そして「タトゥーは絶対にダメ」。

もちろん中には理由があってそう決めているコミュニティもあるでしょう。ただ思考停止してそのルールに従うのはおかしいと思うのです。誰かに洗脳された考えで生きるのではなく、自分を愛することができる人生を歩む人が増えてほしいです。

◇◇◇

いいださんの想いが多くの人に伝わることを願いたい。

いいださん関連情報
Twitterアカウント:https://twitter.com/iida_shi
note:https://note.com/iida_shi
アニメーション制作について:https://iida-vyond.com/vyondanimation/

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