あさま山荘事件から50年「2022年の連合赤軍」元兵士らが証言、カップ麺以外のヒット商品は?

北村 泰介 北村 泰介
放水と鉄球で破壊される「あさま山荘」=1972年2月28日(提供=共同通信社)
放水と鉄球で破壊される「あさま山荘」=1972年2月28日(提供=共同通信社)

 1972年2月28日、連合赤軍による「あさま山荘事件」で警察が現場に突入し、立てこもり犯が逮捕されてから50年の節目を迎えた。事件を検証する書籍の出版が続く中、「2022年の連合赤軍」(清談社Publico)という新刊は副題を「50年後に語られた『それぞれの真実』」とし、当事者や関係者らの証言で構成されている。その内容を一部紹介し、著者の深笛義也氏に話を聞いた。

 あさま山荘に警察が突入した日、NHKと民放を合わせたテレビ総世帯の最高視聴率が90%近くに達した。山荘を壊す鉄球のテレビ映像は、記者も含めて他にチャンネルの選択肢がなかった子どもの脳裏にまで刻まれた。その後、前年末から2か月間の山岳ベースで男女12人のメンバーが〝総括〟と称して殺害され、山中に埋められていたことが判明。学生運動が衰退する要因となり、戦後日本の分岐点となったという見方もある。

 同書には4人の「元兵士」が登場する。逮捕されるまで活動を続けた加藤倫教氏と植垣康博氏、離脱した岩田平治氏と前澤辰昌氏。なぜ、逃げなかったのか?逃げたのか?という問いが人選のベースにある。4人の経歴や言葉を同書から引用する。

 加藤氏は、加藤3兄弟の次男で、事件当時19歳。2月19日から逮捕までの11日間、あさま山荘に立てこもった残党5人のメンバーの1人で、同時に逮捕された高校生の弟も含めて「少年」と報じられた。懲役13年の判決で服役後、農業に従事。環境保護活動に取り組み、自民党員となった。71年末、長兄への総括で弟と共に殴打に参加。長兄(享年22)の死後、加藤氏が「本当に正しかったのかな」と問うと、弟は「正しい」と答えた。10代の兄弟は最後まで行動を共にする。

 植垣氏は立てこもり前に軽井沢駅で逮捕され、懲役20年で服役後、郷里の静岡で01年にスナックを開店。昨年20周年を迎えた。講演やメディアを通して自身の体験を発信する同氏は、「敗北死」という言葉によって「暴行が正当化された」と振り返る。その言葉を発した指導部の森恒夫元被告が73年の元日に東京拘置所で自殺した際には「逃げた」と思ったという。

 岩田氏は「『もうついていけない』と思ったら、そんな革命、やめた方が正解なんです」。前澤氏は「もういやだ、とにかくいやだ、仲間殺すのいやだ」。それが逃走時の本音だった。いずれも警察に出頭し、刑に服して社会復帰した。

 また、あさま山荘立てこもり犯で指導部の1人だった吉野雅邦受刑者(無期懲役、千葉刑務所で服役中)、同受刑者との間に子を身ごもりながら総括として妊娠8か月で殺害された当時24歳の金子みちよさんについて、2人の友人だった作家・大泉康雄氏の証言も収められている。母と共に〝粛正〟された胎内の女児は、生まれていれば今春で50歳になる。

 森元被告、永田洋子元死刑囚(11年に東京拘置所内で病死)、坂口弘死刑囚(同所に収監中)ら指導部と関わった人たちに対し、遅れてきた世代はどう見るか。

 事件をモチーフにしたコミック「レッド」「ビリーバーズ」の作者である60年生まれの漫画家・山本直樹氏は「〝左翼の失敗〟じゃなくて、〝マチズムの失敗〟だったんじゃないか」と指摘。マチズムとは肉体至上主義的な「マッチョ」に由来する言葉だが、「言葉に自分の肉体を従わせること」が現在の日本にも続いているとの見解を示す。記者はSNSの言語空間を想起した。

 59年生まれの深笛氏は、よろず~ニュースの取材に対し、「『自己批判』は自己を客観的に見て批判するという、本来はいい意味の言葉だった。それが転倒して『総括』の名によるリンチ殺人の手段として使われた。リスクのあることを引き受ける覚悟を示す、本来はいい意味のはずの『自己責任』の意味が今は転倒して、失敗した人間を責める言葉になっている。これを見ても、連合赤軍の問題は現在とつながっていると言える」と分析した。

 一方、そうした精神性だけでなく、あさま山荘事件が残した今につながる物理的な事象として日清食品の「カップヌードル」が知られている。機動隊員が食べる姿のテレビ中継を機にヒット商品となるが、もう一つ別にあると、植垣氏は同書で指摘。あさま山荘が保養所だった河合楽器のピアノだという。植垣氏のスナックに同社の「お偉いさん」が来店した際、「ご迷惑をおかけしました」と謝罪したところ、「いやいや、あれで有名になってピアノが売れた」との返答があったという。

 同社公式サイトの「沿革」を確認すると、72年のトピックとして「ピアノ生産累計台数50万台達成」と記されていた。半世紀を経た今も、事件は世代を超えて語り継がれている。

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