「誰でも鬼になる可能性を持つ」妖怪物語が今も新しく作られる理由 妖怪研究のパイオニアが語る

データベースプロジェクト室のドアには「妖怪出没注意」
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 日本各地の民俗資料から収集した怪異・妖怪の事例3万5414件をWebサイト上にまとめた「怪異・妖怪伝承データベース」が今年、公開から20周年を迎える。データベースを監修した国際日本文化研究センターの名誉教授・小松和彦氏は妖怪研究の第一人者。水木しげるさんら創作者と並走しながら、妖怪文化を盛り上げてきた。現代のアニメや漫画で「新たな妖怪」が生まれ続ける背景に、普遍的な「悪役の必要性」があると語る。

 「桃太郎」が退治するための「鬼」や、現代のアニメや漫画のヒーロー・ヒロインを妨害する悪役など、ファンタジーの物語にはいつの時代も「人間の世界を脅かすもの」が登場してきた。近年も「鬼滅の刃」「呪術廻戦」など、人間界と”異世界”を対照した創作が生み出されている。小松教授は「現実の世界には描けない夢を託しやすい」と、理由を推察する。

 小松教授は現代の創作をめぐる世相について、「清水次郎長」のようなやくざ者などが社会的に規制され、ノンフィクションで描ける題材が限られてきていると指摘。「でも、ファンタジーの世界は人間が空を飛ぶこともできる。ヒーローがいろいろな呪術を身につけて悪い妖怪の類いと戦うことができるんです。自由なんです」と話す。

 ”自由”に立ち回る「悪役」には作者のメッセージが込められている。「鬼滅の刃もそうですよね。『いかに自分は鬼になったのか』『人間よりも鬼になった方が良いんだ』と、なぜ鬼になったのかを語らせる所に面白さがあると思うんです」。

 過剰な愛や恨みを持つ人間が鬼の姿に変わる話は平安時代からも多くあり、「誰でも鬼になる可能性を持っている」。節分で鬼を追い払う行為は「自分の中にあるケガレ」を払い落とそうとする儀式で、人間が鬼に触れることで自らのケガレを引き受けてもらえると考えられていたという。「追い払っているけれど、1年に1回は出てきてもらわないと困る」と、異界の者たちは人間の思いを託され続けている。

 人の心を映す”悪役”の研究は大衆文化を読み解く上で欠かせないとして、妖怪の学術的な研究に注力してきた。小松教授が切り開いた妖怪の研究は、水木しげるさんら多くの創作家にも影響を与え、古典的な民俗伝承のエッセンスを取り入れた新たな妖怪が生み出された。「古い妖怪は著作権なしですから」。 研究が大衆文化の担い手に利用されることを「日本文化を豊かにしていると思うのでどんどん使ってほしい」と歓迎していた。

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