「エターナルズ」多様性の本質を描いた新たなヒーロー映画の誕生

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「エターナルズ」のワンシーン=(C)Marvel Studios 2021
「エターナルズ」のワンシーン=(C)Marvel Studios 2021

 今、公開中の「エターナルズ」が何かと話題になっています。メガホンを取ったのは「ノマドランド」で米アカデミー賞、主演女優賞他、作品賞、監督賞を受賞した中国人女性監督クロエ・ジャオ。物語は7000年もの間、人類を見守ってきた10人の守護者エターナルズが、地球滅亡の危機を救おうと奮闘するMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)最新作となっています。

 実は本作、世界最大の映画データベースサイトIMDbでも評価が割れたり、「エターナルズ」の主要メンバーのひとり「ファストス」が同性愛者である理由から一部の中東で上映禁止になるニュースも出るなど、出演者のアンジェリーナ・ジョリーも落胆を隠せずにいます。確かに今までのマーベル作品にしては珍しくベッドシーンがあったり、チームのひとりが同性のパートナーと家庭を持っていたり、10人で構成されるヒーローを演じる俳優陣もバラエティに富み、主演のジェンマ・チャンは中国系イギリス人、韓国映画でお馴染みのマ・ドンソクは韓国系アメリカ人、サルマ・ハエックはメキシコ系、他にもパキスタン系アメリカ人、アフリカ系アメリカ人などの男女混合。更には聴覚障がいを持つローレン・リドロフがキャスティングされ、映画の影響からか公開後に手話に興味を持つ人が増えたというニュースも。

 特にMeToo運動が盛んになったハリウッドでは、早急にダイバーシティ化を望んでおり、米アカデミー賞作品賞の選考基準も2024年からは多様性を重視した条件を満たすことになっています。それらを踏まえると世界的マーケットを持つMCU作品で多様性を取り入れた映画製作は必然であり、アクション映画は主に男性がターゲットであるという思い込みや、主人公は白人ヒーロー(男性)であるという固定概念を覆すためにもクロエ・ジャオの起用は当然のことでした。しかも本作は、女性ファンや子どもの好奇心をくすぐるギリシャ神話の戦いの女神アテナや、蝋で作った翼で空高く跳ぼうとした「イカロスの翼」、更には「ピーター・パン」に関連するキャラクターという設定なのも斬新で魅力の一つになりました。

 ヒーローものでありながらアクションシーンばかりで勝負せずに、自分の中の正義から反発するものを排除する考えや、一番力あるものこそリーダーであるという思い込みを描きながら、果たしてそれで平和をもたらす解決案を見出せるのかを提示していく本作。きっと製作サイドは多様性をもっと具現化しようと「エターナルズ」の脚本を練り上げたようにも感じます。結果、「肌の色も考え方も趣向も違えど元は同じ人間であり仲間である」という原点に観客を立ち返らせ、排除せずに受け入れ、過ちに気付いたのならばその者を許すという人間の変化を信じるメッセージが込められた本作は、思考に変化をもたらす哲学的エンターテイメントとして未来の子どもたちに影響をもたらすのではないでしょうか。

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