夏休みや年末年始、多くの家族が故郷への帰省を計画する季節だ。妻は久しぶりに会う両親の喜ぶ顔を思い浮かべ、胸を弾ませる。しかしその傍らで、夫は「仕事の疲れが溜まっている」「家でゆっくりしたい」などと理由をつけ、同行に難色を示していた。
この時、妻の心には「私の家族を大切に思っていないのではないか」という疑念と不満が渦巻くだろう。なぜ夫は妻の実家への帰省を避けたがるのだろうか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞いた。
ー妻の実家への帰省を避けたがる夫が抱える理由とは
夫が妻の実家に行きたがらない最大の理由は、妻やその家族への嫌悪感ではなく、むしろ「居場所のなさ」に起因すると考えます。妻にとっては気心の知れた我が家であっても、夫にとっては完全に「アウェイ」な空間に他なりません。
妻が母親と台所仕事に精を出し、父親や兄弟と昔話に花を咲かせる中、夫は一人、手持ち無沙汰な時間を過ごすことになるでしょう。共通の話題は見つけにくく、義父の昔の自慢話に延々と相槌を打つしか役割がない、という状況は想像以上に精神的エネルギーを消耗させます。
ー「軽視されている」と妻が感じてしまうのはなぜでしょうか
夫のこうした態度に対し、妻が「自分の家族を軽視している」と感じてしまうのは、ある意味で自然な心理的反応でしょう。自分の大切な家族を、最も身近なパートナーである夫にも同じように大切にしてほしいと願うのは当然の感情です。
しかし、これはあくまで夫の行動に対する妻側の「解釈」に過ぎません。夫が感じている「居心地の悪さ」や「孤独感」といった内面的な問題と、妻が受け取る「家族への軽視」というメッセージの間には、大きな隔たりが存在します。この認識のズレこそが、夫婦の溝を大きくしかねないのです。
ー夫婦が陥りがちなNGなコミュニケーションはありますか
「どうして私の両親を大切にしてくれないの?」「私があなたの実家に行くときは、気を遣って色々やっているのに」といった声掛けは、相手を非難し、コントロールしようとする響きを持ちます。
このようなコミュニケーションは、たとえその場では夫が折れたとしても、彼の心に深いわだかまりを残します。結果として、彼はさらに頑なな態度で帰省を拒否するようになるでしょう。
ー「帰省」を、夫婦や家族にとってより良いイベントにする工夫はありますか
「帰省」を、夫婦や家族にとってより良いイベントにするためには、その捉え方自体を根本から見直す必要があります。「妻の実家に行くのは当たり前」という一方的な価値観を押し付けるのではなく、夫婦双方にとってメリットのある「共同プロジェクト」として再設計しましょう。
例えば、帰省の前後に家族旅行を組み込むというのも一つの有効な手段です。実家の近くにある観光地を一泊二日で巡る計画を立てるなど、夫が楽しめる要素を加えます。これにより、「帰省」は単なる義務から、楽しみを伴うイベントへと変わるでしょう。計画段階から夫婦で共に話し合い、一つの目標に向かって協力するのがおすすめです。
大切なのは、日々の生活の中で、相手の立場を尊重し、小さな対話を積み重ねていくことです。普段のコミュニケーションこそが、年に数回の大きなイベントで生じる亀裂を防ぎ、より成熟したパートナーシップを育むことにつながります。
◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー。
大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、お客様を支えている。