史上最年少の仮面ライダー主演俳優が〝25歳の破局〟に重ねた歌 半田健人が初の著書、歌謡曲を深掘り

北村 泰介 北村 泰介
不惑にして初の著書を出版し、サイン会を開催した半田健人=東京・神田神保町の書泉グランデ
不惑にして初の著書を出版し、サイン会を開催した半田健人=東京・神田神保町の書泉グランデ

 テレビ朝日系特撮ドラマ「仮面ライダー555(ファイズ)」(2003年1月~04年1月放送)で、同シリーズ史上最年少となる18歳で主演を務めた俳優・半田健人が初の著書「たずねる 半田健人の歌謡曲対談集」(本の雑誌社)を出版した。都内でサイン会を開催した半田に話を聞いた。(文中敬称略)

 1984年生まれ、兵庫県芦屋市出身。高校在学中に芸能界入りし、上京後、〝仮面ライダー俳優〟として世に出たが、「最初に見た夢はヒーローでも俳優でもなく、職業作曲家だった」という。中でも、作曲家の都倉俊一(現・文化庁長官)に憧れた。

 物心ついた90年代のヒット曲になじめず、10歳の頃から60~70年代の職業作家が練り上げた歌謡曲に魅了された。ヘッドホンで全楽器をパート別に分解しながら編曲も意識して聴き込んだ。必然的に「この歌は誰が作っているのか?誰が演奏しているのか?」といった裏方への関心が高まり、それが歌謡曲研究の原点となる。

 「20代の頃に本の話が来ていれば喜んで受けていたと思うんですけど、若かったし、背伸びしてしまったと思うんですよ。40という年齢でナチュラルに本を出せたのはタイミングとしてベストだったと思います」

 本書の対談相手は8人。最後を締める歌手・伊東ゆかり以外は、十数年に渡ってラジオ番組「昭和音楽堂」(SBS)で共演している林哲司(作曲家)をはじめ、山上路夫(作詞家)、馬飼野俊一(作曲家・編曲家)、前田欣一郎(レコーディングエンジニア)、植田芳暁(ザ・ワイルド・ワンズのボーカル&ドラマー)、本城和治(音楽プロデューサー)、田中清司(ドラマー)といった作り手が続く。

 「僕にとって生まれる遙か前のこと。大げさに言うと、考古学みたいなところがあるんですよね。人の話の数だけ、真実がある。記録に残されていない、皆さんの違う記憶を自分が審議していく。そういうところが面白いですね」

 その中で、半田は自身の人生にリンクした歌も取り上げた。作曲者でもある森田公一が歌った「ある青春」という山上作詞の曲だ。「世界は二人のために」「ひなげしの花」「虹をわたって」「二人でお酒を」「学生街の喫茶店」「瀬戸の花嫁」…。数々のヒット曲を生んだ大御所の作品中、知る人ぞ知る隠れた名曲。沢田研二も同曲を歌っている。

 半田は「25歳の時、結婚しようと思っていた人と別れた時に『ある青春』を聴いて、その詞がスコーンと入ってきて不覚にも泣いてしまった。体の一部をもぎ取られて歩けなくなったみたいな感覚から、何とか咀嚼して過去の1ページに変えていこうとした時、この歌に支えられた」と打ち明けた。

 また、リスペクトする伊東と念願の対面をした席では、本人から「新曲、作ってくださいよ」とリクエストされた。

 「ありがたい話です」。そう感謝する半田は06年に渚ようことのデュエット曲「かっこいいブーガルー」(詞曲・横山剣)で歌手デビューし、カップリング曲「新宿、泪しらず」の作詞・作曲・編曲を22歳の若さで手がけた作家でもある。ソロでは14 年からアルバム6枚、シングルは16 年から3枚リリース。一方で令和の時代に「新しい歌謡曲」を作ることの難しさも痛感している。

 「歌謡曲を再現しようとしても、それはオマージュやパロディの域を超えない。当時の歌謡曲は、山上先生が語られたように、新しいものを作ろうと思ってできた『結果』なんです。でも、その文化は根絶やしにしてはいけない。いかにアーカイブして、作品の真価を理解して残していくか」

 山上が本書に残した「歌謡曲、終わっちゃったんだよね」という言葉も胸に刺さる。「企画物」ではなく、「普通に、自然に、歌謡曲が生まれる世界」を願い、不惑にして上梓した一冊。気が早いが、続編の構想も聞いた。

 「歌謡曲であれば、都倉さん、野口五郎さんなど改めてお話をうかがいたい方はたくさんいます。この『たずねる』というタイトルは非常に便利で、今回はサブタイトルで『歌謡曲対談集』としましたが、僕の趣味である『建築』や『鉄道』に変えて、その専門の方たちと対談したり、『俳優』として仮面ライダー関係者を訪ねるのも面白いと思います」

 6月4日に41歳の誕生日を迎える。同7日には都内の老舗ジャズクラブ「銀座Swing」で「半田健人バースデーライブ with Jazz Friends」と題した公演を開催。さらなる新境地に挑む。

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