超高齢化社会の現代、いつまでも元気に自宅で暮らせることは理想的だ。しかし、不測の事態でいつ入院や施設入所となるか分からない。突然“その日”を迎えた時に慌てないためにも、備えをしておくことは大切だろう。高齢者自身だけでなく、離れて暮らす親族にもできることは何か。具体的にどんな準備を進めておくべきか、専門家に聞いた。
身元保証サービスなどを手がける神戸市の一般社団法人「くらし支援ネット」の若井丹治朗さん(50)は「端的に言うならば、エンディングノートですね」と話す。
「エンディングノート」とは、自分自身に何かあったときに備え、家族がさまざまな判断や手続きを進める際に必要な情報を記したノートのこと。印鑑や銀行口座がどこにあるか、株や保険などの資産情報、かかりつけ医や服用している薬、交友関係に入院時必要な衣類や生活道具、治療や葬儀についての希望などなど。挙げ始めればキリがない。それゆえ、書き込むのはなかなかの手間だ。
そこで、若井さんは「大事なのは『身内の連絡先』と『お金関係』の2点。この二つがあれば、我々(支援者)もお手伝いしやすいし、スムーズに動けます」と、最低限二つの項目を記しておくべきと強調する。救急搬送されても、いつまでもその病院にいられるとは限らない。リハビリや長期治療となったら転院、というケースが多い。その際、親族など身元保証人が必要だ。また、亡くなった場合でも、第三者が自宅や荷物を勝手に整理することはできない。親族や相続人との接点が何より大切となる。
すぐ駆けつけられる場所に子供など親族がいれば頼れるが、それでも、印鑑や銀行口座などお金の情報まで把握していることは少ない。預貯金があっても、本人でなければ、または暗証番号がなければ使えなくなる。入院をはじめ、施設入所や葬儀も無料サービスではない。基本的には当事者が払うもの。これらの費用を工面するためにも、『お金関係』を把握しておくこともまた、重要だ。
同法人は5年前から高齢者の支援サービスを本格的に始めた。単身高齢者の身元保証などを請け負い、相談件数は当時の「10倍以上」に激増した一方、大事な情報を記したノートなどを用意している人は「ほとんどいないのが現状」という。エンディングノートは、自身のためはもちろん、世話をする親族や支援者にとっても「あるとないでは、全然違う」“お役立ち情報”だ。
若井さんは「いかにも“死に向かっている”ような『エンディング』という言葉が悪いなら、『生活便利帳』だと思っていただければ。財布を落としたりしても、カード番号などを控えていれば、すぐに止めることができる。年賀状やはがきを誰に出していたかを覚えておけるアドレス帳にもなる。市や区から無料で配布していることも多いので、暮らしに役立つ便利帳として使ってほしい」と説く。離れて暮らす高齢者のために、子供ら親族が作成するのも有効だ。
これから梅雨、夏にかけて、高齢者は体調を崩しやすく、救急搬送の増える時期でもある。アレもコレもと準備していくのは大変だが、〝もしものとき〟に備えて自分自身、あるいは親子で『必要なこと』を一筆記す程度のひと手間は大切にしたい。