歌舞伎俳優の中村歌昇(35)が19日から24日まで、都内の六本木トリコロールシアターでフランス現代劇「『Fallait pas le dire』Ⅸ.!~邦題『それを言っちゃお終い』」で女優との2人芝居によるドラマ・リーディングに初出演する。新境地に挑む梨園(りえん)のホープが、よろず~ニュースの取材に対し、舞台への意気込みや心の支えとなっている家族について語った。
原作はフランス各地で7か月以上のロングランとなったヒット作。5日間、1日2公演の計10公演(20日は休演)で、歌昇は紡木吏佐(19日)、和久井優(21日)、小山百代(22、23日)、矢野優花(24日)と共演する。
歌昇は「台本は手にしつつ、ほとんど立って動きながら、原作の15シーン中、12シーンを上演します。全て違う設定なのでキャラクターを演じ分けるのが楽しみです。内容はシリアスあり、笑いあり。男女の会話の中での何気ない一言で状況が変わっていくところの面白みが出せればいいなと。ユーモアを交えた自然な会話で構成された現代劇です」と説明し、「今の時代の話なので、下調べも必要なく、飛び込んで観に来ていただければ」とアピールした。
歌昇は三代目中村又五郎の長男で、2011年9月に四代目中村歌昇を襲名した。1994年6月、5歳の時に四代目中村種太郎として初舞台を踏んでから今年で30年の節目を迎える。だが、当の本人は「30周年って、この取材で言われて気づいたくらいです」と屈託なく笑った。特に〝周年〟への意識はない。だが、それでも初となる外国作品出演には期するところがある。
歌昇は「歌舞伎俳優は『オセロ』などシェイクスピア作品に出ている方も多いですし、それこそ今の(二代目)松本白鸚さんの『ラ・マンチャの男』などは有名です。いい勉強になりますし、どんどん飛びついてやっていきたいなと思っている中で、いただいたのが今回の舞台のお話でした」と経緯を明かす。
その上で、歌昇は「テレビドラマとか映像のお仕事では、歌舞伎の『節回し』など使わない部分もありますけど、演じるという部分では変わりはないので、自分の中の可能性を広げる意味でもいろんなことに興味がある。今回の舞台も歌舞伎役者だからできる表現をしようということよりも、自分の新しい引き出しを作りに行こうという思いがある。あまりセリフを作り込まないで、その時の感情になってしゃべるということに重きを置いてみることが大事なのかなと思いますね」と意欲を示した。
山田流箏曲萩岡派四代目家元・萩岡松韻氏の次女・信乃さんと15年に結婚して今年で10年目。2男1女の父になった。プライベートでの安らぎは「家族の成長」だという。
「一番下に2歳になった娘がおりますが、上のお兄ちゃんが妹にやられている姿を見ると、自分は男兄弟で育ったので、すごく新鮮というか楽しい。子どもたちが『お父さん、かっこいい』と言ってくれることが、いま一番うれしかったりします。先日(テレビ朝日系ドラマ)『相棒23』に出させていただきましたが、『あ、パパが出てる』と言ってくれたりとか(笑)。子どもたちに誇れるような父親になりたいと、最近、思えるようになりましたね」
2人の息子は既に初舞台を踏んだ。父として、役者の先輩として見守る。
「長男の中村種太郎は8歳の小学3年生、次男の秀乃介は来年小学校に上がる6歳です。でも、将来、2人が歌舞伎役者になるとか、なってほしいとは思っていなくて、自分がやりたいと思う道に進めばいいというスタンスです。たった1度の人生ですから、他にやりたいことがあればそちらに邁進してくれた方が僕はいいと思う。向き不向きもありますし、(歌舞伎は)簡単な世界ではないので。ただ、その道を作ってあげておくことはしておきたいと、父親としては思います」
来年3月には石川県七尾市の能登演劇堂で上演される吉岡里帆と蓮佛美沙子出演の二人芝居「令和6年能登半島地震復興祈念公演『まつとおね』」の演出を担当。本格的な演出家デビューとなる。かけがえのない家族を支えに、歌昇の新たな挑戦は続く。