K-POPだけじゃない!韓国の大衆音楽「ポンチャック」が再評価 40年間収集のカセットテープが書籍化

北村 泰介 北村 泰介
日本でも知られる李博士のカセットテープ(手前)と新刊書籍「ポンチャックアート1001」
日本でも知られる李博士のカセットテープ(手前)と新刊書籍「ポンチャックアート1001」

 K-POPが世界で人気を博す中、韓国では〝前世紀の遺物〟的な存在だった大衆音楽「ポンチャック」が改めて注目されている。5人組ガールズグループ「NewJeans」のプロデューサー・250 (イオゴン)が昨年のデビューアルバム「ポン」でポンチャックを換骨奪胎して話題になった。「再発見」の機運を背景に、カセットテープのジャケットを1000本以上も収録した書籍「ポンチャックアート1001」(東京キララ社)が刊行された。40年間、現地で収集を続けた3人の監修者に話を聞いた。(文中敬称略)

 監修は〝特殊漫画家〟の根本敬、音楽評論家の湯浅学、フリーライターの船橋英雄による、埋もれた名盤を発掘するユニット「幻の名盤解放同盟」(以下、同盟)。1984年以来、渡韓を繰り返し、「ディープ・コリア」といった書籍を出してきた。

 ポンチャックとは、電子キーボードやリズムボックスなどで刻まれた2拍子に乗って複数の曲が延々と歌い継がれる大衆歌謡。日本で77-78年に大ヒットした「演歌チャンチャカチャン」(平野雅昭)にも通じる。現地では「ポンチャック・ディスコ」と称され、主に中高年層の男女がハイテンションなノリに合わせて宴会や大型バスの中などで踊り、トラックなどの運転手が眠気覚ましに聴くこともあったという。

 そんな光景が見られたのも90年代くらいまで。世界に輸出される今世紀の洗練されたK-POPとは真逆で、当時から対外的には「知らなくていい」存在だった。同盟がレコード店でポンチャックのテープを購入する際、店員に「これ、ほんとに買うんですか?もっと他にいいものがある」と、日本でもおなじみのチョー・ヨンピルを勧められたこともあったという。

 それでも、3人はカセットを買いあさった。ジャケットには〝いい顔〟をした歌手たちの個性的な髪型やファッションセンス、音の中身とは関係なさそうなイラスト、派手な色使いなどがあふれ、そんな全てが一冊にまとめられた。

 本書内の対談で、根本はそのアートワークの背景に関して、タクシー運転手などの購入者が「タバコとかお菓子の箱とかと一緒で、買うとパッケージもケースも捨てちゃうわけ」と説明。捨てられる前提の〝やっつけ仕事〟だったのかもしれないが、その無意識の産物がアートに昇華し、本書に詰め込まれた1000本以上という圧倒的な「量」によって、「なかったこと」にされかけていた〝大韓文化〟の底力がよみがえった。船橋はカセットの第一印象を「音の出るメンコ」と例えた。

 9月末に都内で開催されたイベントで、湯浅は「ポンチャック・ディスコに言及している韓国のメディアはほぼない。全国どの土地でも、レコード店だけでなく、電気店、土産店、サービスエリア、雑貨店、本屋にも置いてあるが、あまりにも〝普通〟の存在だったため話題にならず、その歴史について本を書いた人もいない。この本を作るに当たって資料はこれ(現物のカセット)しかなかった」と振り返る。今回の労作は音楽書籍ではなく、「アート本」であることも強調された。

 ちなみに、日本では李博士(イ・パクサ)という歌手を通してポンチャックが一時的だが表舞台で扱われたこともある。李は96年に「YOUNG MAN」「おどるポンポコリン」「木綿のハンカチーフ」「与作」など日本のヒット曲をポンチャック風メドレーにしたアルバムをリリース。さらに電気グルーヴとコラボして日本武道館公演にも登場し、殺虫剤のテレビCMやダウンタウン司会の音楽番組などにも出演した。それから四半世紀以上を経てポンチャックが再評価される中、李は5日に古希を迎える。

 思えば長い道のりだった。根本は当サイトの取材に「(初渡韓から)40年後、こういう本が出るとは…」と感慨を込め、船橋は「まったくだね」とうなずいた。

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