既婚者が配偶者以外の相手と性的関係や恋愛関係になる、いわゆる「不倫」によって、著名人が社会的な地位や信用を失うケースが報じられてきた。プライベートな問題であっても、公的な立場にある人物が所属する組織などのイメージダウンといった不利益を生じさせた場合、社会的制裁は「やむを得ない」という考え方が日本社会には浸透しているようにみえるが、一方で「公私混同」として異を唱える声もある。ジャーナリストの深月ユリア氏が法的な見地から弁護士の見解を聞いた。
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今年度のミス日本に選ばれたウクライナ出身のモデル、椎名カロリーナさん(26)が2月1日発売の週刊文春で、40代の既婚男性との不倫疑惑が報じられたことがきっかけとなり、自らミス日本を辞退した。これにより今年度のミス日本のグランプリは「空位」となった。
かねて、日本では有名人の不倫スキャンダル報道が多く、ターゲットになった人たちは世間からバッシングを受けたり、肩書き・社会的立場を失うことがある。不倫とは極めてプライベートな問題であるのにも関わらず、肩書き・仕事にまで影響するのは公私混同にならないのか。都内にある「きさらぎ法律事務所」の福本悟弁護士に法的な見解を聞いた。
福本氏によると、そもそも不倫で民事上違法とされるのは「不貞行為」であり、「セックスがない既婚者の交際は、それが恋愛感情を伴う意味で倫理に反する『不倫』であったとしても、民事上違法とされるケースは極めて稀(まれ)です」。
この場合の加害者は「配偶者を裏切った夫または妻であり、これに加担したそのパートナー、つまり性行為をした異性。この両名による共同不法行為」で、被害者は「夫婦の他方が被害者です。他に被害者はおりません。ですから勤務先などから責任を追及されることはありません」。ゆえに「当然、社員が不貞行為を行ったことを理由に懲戒などできません。法的には会社は、被害を受けたことにはなりませんから」
もし、社内で不貞行為がばれたことにより、解雇処分になれば、その会社を訴えることができる。「裁判では、不貞行為をした社員に分があります。ただし、こういう場合、解雇など処分を下した企業や団体は、不貞行為が解雇等の原因ではなく、他の勤務態度に問題があったと主張・反論してきます。そうなると、社内でも不貞行為をした社員を積極的に擁護する声は少なくなるでしよう」
しかし、例外もある。「不貞行為そのものの被害者ではないが、ある社員が不貞行為をしたことが原因で、勤務先法人に被害が及ぶことはありえるでしよう。例えば、ある社員が、その好感度を理由に何らかの賞でも授与されたことが契機に会社の評判が上がって、販売する商品の売れ行きがよくなったところ、その社員の不貞行為が発覚して不買運動が起こったり、仕入れ納品を断られた場合。不貞行為でなくても、社員の何らかの行為が原因となって、その会社法人の評判が一時期に低下することもまたしばしばみられます」
芸能人や政治家は有名になればなるほど、自分自身の評判を売りにするので、不倫が発覚したことによって自身が属している団体の評価が下がったり、ファンが離れることで出演番組の視聴率が下がる場合があるかもしれない。それでも、福本氏によると、 「損害と因果関係の立証は厳しいといわなければなりません。 ある事柄が契機に人気が出て、ある事柄があるとこれが下がることは社会ではしばしば起こることです」
つまり、不貞行為が発覚することにより、肩書き・社会的立場を失うことは非合法だといえる。
「不貞行為は個人の問題。被害者は、不貞を敢行された他方の配偶者だけとの理解が徹底されれば、昨今騒がれるような社会的な制裁が生じることもないと考えます」
「空気を読む」という表現があるように、集団心理・同調圧力が働きやすい日本では、極めてプライベートな問題である「不倫」「不貞行為」に過敏すぎるのかもしれない。