コンビニでコーヒー購入後にカフェラテ注ぐと窃盗罪?詐欺罪? 店側「顧客の良心」も警察と常習犯対策

北村 泰介 北村 泰介
空の紙コップをマシンにセットして中身を注ぐスタイルのコンビニ・コーヒー
空の紙コップをマシンにセットして中身を注ぐスタイルのコンビニ・コーヒー

 「コンビニコーヒー」が定着して久しい。コンビニエンスストアに入ると、レジ付近にコーヒーマシンがあり、レジで購入した飲料を入れる空(から)のカップを置いて、該当する商品ボタンを押して中身を満たす。安価で本格的な味わいが楽しめる一方、セルフサービスという行程を悪用し、わずか数十円の差額をごまかそうとする利用客がおり、中には逮捕された案件も近年起きている。その最たるものとして、ついに強盗殺人未遂事件にまで発展する出来事が今月起きた。専門家に話を聞いた。

 事件は群馬県太田市内のコンビニエンスストアで発生した。25日朝、110円のSサイズコーヒーを購入した男がカフェラテ(180円)をカップに入れていたところを、同店の74歳の男性オーナーに見つかり、注意されると、男は「トイレに行く」と偽って車で逃げようとしたため、オーナーは車のワイパーにしがみついたが、男はそのままの状態で発進。蛇行運転しながら約250メートル引きずったところで、74歳男性は振り落とされ、頭を強打して重傷を負った。

 逃走した男は防犯カメラの映像などから身元が特定された。強盗殺人未遂容疑で逮捕されたのは群馬県太田市の60歳の男性契約社員。容疑者は取り調べに対して「違います」と容疑を否認しているという。

 それにしても、コーヒーとカフェラテ、わずか70円ほどの差額をごまかしたことから起きた殺人未遂事件。元刑事はどう見たか?

 元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は当サイトの取材に対し、「実際にコンビニで取材をすると、間違いの場合もありますが、この手の犯罪は非常に多いそうです。Sサイズのコーヒーを買ってLサイズのボタンを押すなど、購入した商品より少し高い商品のボタンを押すのです。ただ、カップの種類によって店の人はどの商品か、見れば分かるので、この大きさや形では、どのボタンを押さなければならないとか、後で防犯カメラを見れば分かる。そういうことで、コンビニ側としては警戒していたんだろうと思います」と説明した。

 その上で、小川氏は重傷を負った被害者について「なんとかして捕まえたいという気持ちは分かるのですが、危険だなと思いました。被害にあわれたことはお気の毒ですし、心配ですが、こういうケースの場合は、防犯カメラもありますし、車のナンバーをチェックして警察に通報するということが一番ではなかったのかと思います」と付け加えた。

 ちなみに、コーヒーの差額をごまかす行為はどのような罪状になるのだろうか。

 小川氏は「レジで料金を支払う際に、当初から110円のコーヒー代金で180円のカフェラテを飲んでやろうと考えていたなら『詐欺罪』になります。また、当初から110円のコーヒーを飲むつもりで料金を払ったが、マシンの前に行き、ちょっと高いカフェラテを飲んでやろうと考えたなら『窃盗罪』になります。最初から金額をだまそうと計画していれば詐欺、マシンで他のボタンを押して出てきたものを持ち帰れば窃盗です。今回、『強盗』容疑が付いたのは、逮捕されることを免れるため、または、罪証隠滅のために、暴行・脅迫をすることが『事後強盗』に該当するからです。また、その行為が殺人未遂に当たるので、強盗殺人未遂での逮捕となったのでしょう」と解説した。

 近年、こうした「コンビニコーヒーの差額をごまかして逮捕」というケースが報じられている。

 19年1月には福岡県で62歳の男が100円のコーヒーを購入して、150円のカフェラテをカップに注いだ窃盗容疑で逮捕。21年1月には熊本県でレギュラーサイズのコーヒー(100円)のカップにLサイズのカフェラテ(200円)を注いだ60歳の男性公務員が現行犯逮捕されて懲戒免職処分に。今年4月には福岡県で72歳の男が購入した100円のSサイズコーヒーのカップに150円のMサイズ分のコーヒーを注いだ窃盗容疑で現行犯逮捕された。いずれも店側からの相談を受け、警察署員が張り込んでいたという。

 コンビニ側はどのような対策を取ってきたのか。

 コンビニで長く勤務してきた流通アナリストの渡辺広明氏は当サイトの取材に対して「セルフコーヒー問題は、その行為が故意であるか?故意でないか?で犯罪性が分かれているため、お店での判断が難しい。そのため顧客の良心に任せた販売というのがほとんどの店舗の現状となっている場合がほとんどです。万引きはコンビニのロスの1割弱と、従業員の不正やミスによるロスと比べて圧倒的に低く、またコンビニの万引きは不特定多数がするというより常習犯の場合が多いため、店舗では多数の防犯カメラや監視により、万引き犯を捕まえるケースが多い。ただし深追いはさらなる悲劇につながるため、万引き犯の次回来店時に警察と連動するなどの対策が大事になってくるのかもしれません」と解説した。

 例えば、コーヒーのカップをマシンにセットした後、該当商品以外の商品(カフェラテ等)のボタンを押しても作動しない…といったシステムの開発は難しいのだろうか。

 渡辺氏は「システム開発は可能だと思われますが、開発コスト面を考えると、こうした被害はレアケースですので、次世代の機械に導入を検討するという感じだと思います」と指摘した。コンビニ側は、常習犯のチェックを警察と連動して行なうという地道な対策を続けているのが現実のようだ。

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