映画チラシは第4次ブーム コレクター歴40年の猛者がニセモノ出品の注意喚起

山本 鋼平 山本 鋼平
〝お隣さん〟のハンドルネームで活動する音成賢さん=都内
〝お隣さん〟のハンドルネームで活動する音成賢さん=都内

 主に映画館で無料配布される映画チラシのコレクターがいる。「お隣さん」の名前で活動する音成賢さん(54)は、コレクター歴40年。映画館で販売される上映作品グッズの企画・納品を職業とし「仕事も趣味も映画です」とどこか誇らしげ。その奥深さを聞いた。

 音成さんは映画チラシを公開年ごとファイル分けして保管する。同一作品でも地域別、上映時期等でチラシも異なる。「実際に数えた事がなく、概算ですが」と断ったうえで「ファイルが60年分あるとして、昔はそんなに映画の公開本数もなく、80年代後半位から公開本数が増えていくのですが、近年は年間600本の映画が公開されるので、毎年平均200作品としても1万2000作品。少なく見積もって2万枚はあるかと思います」と語った。六畳部屋の3分の1が棚やダンボールで埋まっているといい「老後に整理するのを楽しみにしております」と笑った。

 コレクションのはじまりは1982年。埼玉の田舎町で暮らしていた中学時代、東京からの転校生にB5ファイルに収められた映画チラシコレクションを見せられ「地元に映画館がなかったので、うらやましくて憧れました」と目覚めた。

 18日には都内で開催されたイベント「アメイジング商店街 映画部」でトークショーを展開。映画チラシのうんちくを紹介した。

 映画チラシは映画館から無料で入手できるが、宣材であるため、公開後は撤去されるので、注意が必要だという。地域によっては大きさが異なり、チラシに印刷される公開日が異なる場合もある。リバイバル上映、2本立ての場合は併映作品、記載フォントの違い、印刷された映画館によっても価値が異なる。「ロッキー」などの人気作は限りなくチラシの種類が増える。「東京の映画館じゃないとダメ、とか好みが分かれるところです」とマニアの傾向を説明し、イベント後には「僕は珍しいのですが、チラシに日付や感想などの書き込みがあると、どんな思いで映画を見たのか、これを書き込んだのか、と想像できるので好きですね」と補足した。

 映画チラシのブームは過去に3回発生したという。第1次ブームは「燃えよドラゴン」が公開され、ブルース・リーが大ブームになった1973年。第2次ブームはジャッキー・チェンが人気を集めた1980年代前半。第3次ブームは専門誌等で「映画チラシ」特集が組まれた1990年代だという。

 変わり種もある。折りたたまれたチラシを広げると登場人物が飛び出す「ウエストサウド物語」、チラシの中で記載された今後の期待作を挙げる囲み記事に「スター・ウォーズ」が「惑星大戦争」と紹介されていたもの、2011年に東日本大震災の影響で「アンノウン」へと変更される前の「身元不明」であるもの。映画館で配布されない他業種とのコラボチラシも人気があり、ケンタッキーフライドチキンと「ホーム・アローン」、タクシー業界と「エイリアン4」、JR東日本と「バットマン」などが知られる。

 現在では前売り特典のチラシ、出演俳優や監督の人気が高まることを見越してミニシアター系作品を集めるのがプレミア品を手にする常道だという。音成さんは「ネットオークションの値段がかなり上がってきているので、今が第4次ブームなのかもしれません」と現状を語るとともに、ニセモノが流通していると警鐘を鳴らす。「ロッキー」「007」シリーズでは、公開当時の映画雑誌の付録を〝映画チラシ〟として出品するケースが増えてきているという。

 また、希少な映画チラシは必然的に第1次ブーム1973年以前のものになるが、当時は現在のようにB5サイズに統一されておらず、大きさもさまざま。60年代は、レコードのライナーノーツに公開館や公開日の印刷が施され、映画チラシに転用されることがあった。最も高価とされる一つが「荒野の用心棒」(1964年)で、数十万円の値が付くこともあるという。音成さんは「僕もいまだ本物を見たことがありません。でもレコードは数百円で買えるので、そのライナーノーツを映画チラシだと高額な値段をつけてオークションに出品する例があります。気をつけてほしいです」と語った。

 映画チラシにとどまらない情熱は仕事にも生かされる。「007」シリーズの新作が上映される際は、過去のパンフレットを陳列し、話題を集めた。「僕は裏方で、話題になるのは映画館です。それでも若い人に映画の面白さ、昔の作品の良さが伝えられたらうれしい」と前を向いた。趣味と仕事の両立は、これからも続きそうだ。

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