栃木県の養豚場で「豚熱」発生 5万6000頭が殺処分に 発症原因に動物福祉への意識の低さも指摘

深月 ユリア 深月 ユリア
画像はイメージです(dusanpetkovic1/stock.adobe.com)
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 栃木県で「豚熱」の感染が7月に確認され、豚の殺処分頭数が国内最多の約5万6000頭に上ったという。ジャーナリストの深月ユリア氏がその背景や経緯、今後の課題について、栃木県の畜産関係担当者や動物福祉(アニマルウェルフェア)の専門家に話を聞いた。

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 7月23日、栃木県は那須烏山内の大規模養豚場で「豚熱」が発生し、同日夕方から約5万6000頭もの豚の殺処分を開始したことを発表した。豚熱とは、豚のウイルス性疾病であり、豚には致死性の高い病気であるが、ヒトには感染することはない。今回の豚熱は農場主の申告ではなく、匿名のメールによる県情報提供があり、発覚したものだった。

 家畜伝染病予防法に基づき、豚熱のような特定家畜伝染病は養豚場の豚が1頭でも感染すると全頭殺処分しなければならない法律がある。農林水産省の資料によると、県内の養豚場での豚熱発生は今年4件目で、国内全体を見れば、全83事例、殺処分数は約35万3852頭となる。今回は殺処分と養豚場への補助金として18億円が使われ、この費用は税金でまかなわれるという。

 特定家畜伝染病防疫指針での殺処分方法は「薬殺、電殺、二酸化炭素によるガス殺等の方法により迅速に行う」と定められているが、 「パコマ」のような逆性石鹸は、意識を失うまで時間がかかり、動物が長時間苦しむことになるので米国獣医学会の安楽死に関するガイドラインでは禁止されている。

 筆者が栃木県畜産振興課に今件の経緯や殺処分方法について取材したところ、担当者は「同養豚場では、豚への『豚熱』用ワクチンは接種済みで、防鳥ネット設置などの飼養衛生管理基準も6月まで満たしていましたが、今回の豚熱の発見が遅れた理由に関しては現在、調査中です。殺処分は電殺と二酸化炭素ガスによって行われます。なるべく、麻酔を使うようにしていますが、ただし、全頭に使用することはできず、子豚には使用しません。昔に比べ、麻酔を使う流れには変わってきています。今回、風評被害が心配ですが、栃木県は安全な豚肉しか流通させません」と説明した。

 近年、アニマルウェルフェアの意識が高まり、殺処分の際に麻酔を使う流れにはなっているようだ。しかし、筆者がNPO法人アニマルライツセンター代表理事の岡田千尋氏に取材したところ、「豚熱はワクチンがあっても終息できないものです。 アニマルウェルフェアという倫理面の配慮を置き去りにしたまま集約的な工場畜産がどんどんと増加してきたことにも原因があるでしょう。妊娠ストールという檻(おり)で拘束して飼育する養豚場が9割を超え、飼育密度も最低基準すらないような状況です。5万4000頭という大規模な養豚場を前にして、家畜伝染病予防法で定める〝早期〟の封じ込めは不可能です。感染した農場に出入りする日数と人数が増えれば、それだけ感染を拡大させるリスクも増します」という。

 今回の豚熱の発症原因には工場型畜産のアニマルウェルフェアへの意識の低さがあるという。栃木県も努力しているようだが、家畜伝染病がまん延しないよう、動物たちが苦しまないよう、そして、人間の健康のためにも、工場畜産の在り方に関して見直すべき時期なのかもしれない。

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