「本の自販機」が令和に復活!?「せつな~い」「あったか~い」のボタンも

松田 和城 松田 和城

 昭和後期に存在した「本の自動販売機」が再び注目を集めている。福岡県にある本屋「本と羊」の店主・神田裕氏(57)は4月上旬、同店のツイッターで「さすがに夜中まで開ける体力はない。出来たら24時間体制で売りたいのです」とつづり、飲料自販機の写真を加工した本の自販機画像を投稿。実現に向けたアイデアを模索していることを明かした。

 背表紙が並ぶ本屋の本棚がそのまま自販機の商品棚に。神田氏は本のラインアップに思いを膨らませた。「自販機らしく『あったか~い』とか『せつな~い』とかのボタンがあってもいいですよね。分かりやすい例で言えば、本屋大賞、芥川賞、直木賞のノミネート作品とか。1テーマ1月のローテーションで組み替えても面白そう。テーマは無限ですよ」。また、最新の飲料自販機では人の顔をAIで判断した後、性別、年代によって並ぶ商品が変わる機能があることに触れ「40代中年の方が写ったら歴史小説を並べるとか、応用できそう」と新たな発想も口にした。

 大分県出身の神田氏は、広告などのデザイナーとして20歳から東京で19年秋まで勤務。もともと定年まで働いた後、九州に戻る予定だったが、職業柄、自身の作品を直接人に評価される機会が少かったことから、顧客とのコミュニケーションを欲する気持ちが生まれ、まだ身体が元気な50代半ばのうちに接客業への挑戦を思案した。「何も他にやったことがなくてずっと悩んでいたんですけど、自室の本棚を見て『本屋って面白そうだな』と思い、かみさんに相談しました。驚いていましたけど『どうせ止められないんでしょ』と言われ先に帰りました」と振り返った。

 20年8月に九州に戻り書店をオープン。妻は東京から選書のサポートを行っているが、店の接客はワンオペのため長時間店を開けたくても体力的に限界があった。打開策として東京・武蔵野市にある無人古本屋などを参考に先述のアイデアを投稿。ツイートは17日時点で1200リツイート、7900件以上のいいねを獲得している。バズった要因に本の面ではなく背表紙を見せて陳列した点をあげた。「本棚が外にボンって置いてあるような感じなんですね。『どれにしようか』『これなんだろう』みたいな本棚から選ぶ楽しさが、あの画像に見えたからみなさんに響いたのかなと思います」と推測した。

 投稿への反響は大きく、「病院や区民プールの待合室にほしい」というような設置場所の提案など、さまざまな意見が寄せられた。金銭面や出版社との関係も踏まえ、実現の可能性は「50%」程度だとしつつも、「不可能ではないと思います。お客さんに買っていただけるという確約がクラウドファンディングを通して分かればやりたいです。『いいね』してくれた方が1人1000円ずつ出していただければ約800万円集まるのですが」とジョークを交えつつ意欲を見せた。

 神田氏は、通販などで購入が容易となった現代では消費が飽和しており、ガチャガチャを回す際の〝ワクワク感〟のような付加価値が必要だと話す。「純粋に本を買いに行く人が減っていることは確かで、本を買うこと自体にも少なからず『行為を楽しむ』というような体験という価値を付けたいと思います。もちろん自販機を通して実店舗に足を運ぶ人が増えてほしいなという目的もあります」と言葉に力を込めた。

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