Rー1〝アマチュア問題〟とは 1回戦敗退芸人「まさかラストイヤーでこうなってしまうとは…」

山本 鋼平 山本 鋼平
失意からの再起を誓うマザー・テラサワ
失意からの再起を誓うマザー・テラサワ

 早大大学院から転身し、哲学や社会思想をネタに織り込む〝哲学芸人〟マザー・テラサワ(39)がピン芸人ナンバーワンを争うR-1に挑み、1回戦で敗退した。今回が芸歴10年目の規定ラストイヤー。2019年の準々決勝を超える躍進を目指したが、R-1特有のアマチュア芸に心が乱され、会場の厳しい雰囲気にもはね返された。痛恨の舞台を振り返るとともに、大会の根深いアマチュア芸問題を語った。

 大雪に見舞われた東京会場初日の今月6日。客席が3割ほど埋まった50人弱を前に、テラサワは不覚を取った。「大滑りしてしまいました。1回戦はまあ大丈夫、と油断してしまったのかもしれません。まさかラストイヤーでこうなってしまうとは…」。2015年以降、初戦敗退は皆無。昨年は2回戦で屈したが、ラストイヤーの今回は自己最高の準々決勝を上回り、決勝進出を目指していた。赤ん坊に扮して哲学を語るネタは不発。「偵察を兼ねて芸人が客にいることが多いのですが、あの日は大雪で一般のお笑いファンが少なかったようで、一日を通して空気が重いと言われていました。ネタの選択を間違えたかもしれません」。痛恨の敗退に終わった。

 出番前、心を乱していた。待機中にステージから米米CLUB「浪漫飛行」が流れてきた。規定で禁止されているカラオケ音源を用い、歌詞はそのまま。大反則のカラオケ歌唱が耳に入った。「堂々とルール違反を行う素人芸に、イラッとしてしまいました。会場の雰囲気、ラストイヤーであるという重圧のせいもあったのでしょうが」と反省し、「賞レースをメインにライブ数を増やしていたのですが、想像以上のショックでした。しかし舞台で笑ってもらえてナンボですから。これも自分の実力です」。昨年は配信を含め227本のライブをこなしてきた。努力が実らなかった無念さを押し殺し、大一番で大滑りした現実を受け止めた。

 R-1出場者の主なジャンルは漫談、フリップ芸、ひとりコント、ギャグ連発、モノマネだという。一方で、アマチュア芸の特異性は以前から指摘されていた。「コントや漫才と違って、自分一人の判断で誰でも出場できますから。アマ禁止の回もあったのですが」と話すテラサワが、過去に見聞きした1回戦の逸話は次の通りだった。

 「声が出ない」「フリップの文字が小さすぎて判読できない」「赤ん坊をステージに残し、ネタ時間2分後に回収する」「材料をステージに運んで2分間でタンスを組み立てる」「高齢女性がMCにトイレの場所を尋ねる」「プロのダンサーが純粋にダンスを披露する」「役者が笑い要素のないひとり芝居を行う」「自分の遺影を抱き、号泣しながら客席をねり歩く」「有名ユーチューバーが大勢のファンに大笑いで迎えられ登場。ネタが終わるとファンも退場」「●●(人気芸人の名前)より面白い、など奇をてらった芸名」「粉や液体などでステージを汚す」

 だからこそ、カラオケという極めてシンプルなアマチュア芸に心が乱された現実は重かった。いずれにせよ、不本意な結果に終わった最後のR-1。テラサワは「芸人人生は賞レースが全てではない、と思っていたとはいえ、自分なりの意地があったのでしょう。哲学芸人を名乗りながらも、冷静さを失ってしまいました。考えたくないと考えながら、考えが巡りました。ラストイヤーにこうなってしまうとは」と、想像以上だった心の傷を明かした上で「しかし、こんなことで芸人を辞めてたまるか、という気持ちも強くなりました。活動を見直す部分はあると思いますが、芸人を続けていきます」と語った。活動8年目を迎えた読書会の内容をまとめたテキスト冊子が昨年から刊行されるなど、新たな展開もある。哲学芸人は新たな地平を求め、思索とネタを深めていく。

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