ヴァイオレットの自動手記人形 現実の手紙代筆代行サービスは半分が〝不幸な手紙〟

松田 和城 松田 和城

 「金曜ロードショー」(日本テレビ系)で先月29日、アニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の特別編集版が放送され、反響を呼んだ。主人公・ヴァイオレットが依頼人の手紙を代筆する「自動手記人形」の職務を遂行しながら、「愛してる」という言葉の意味を探す物語。そんな手紙代行サービスのリアルとは―。一般社団法人日本代筆屋協会「手紙代筆代行サービス・代筆屋手書き屋」代表の長谷川幸恵氏(35)は、「幸せな手紙、不幸な手紙が半々」と明かした。

 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」では、感謝や幸福をテーマとする手紙を代筆する。現実の手紙代行サービスではお礼状やラブレターに加えて、不倫相手への警告や上司の告発などが半分を占めるという。「なぜ不幸な手紙があるのかというと、手書きだとメールなどよりもダメージが強いからです。相手にダメージを与えたいから匿名の手書きで書いてほしいという依頼があります」と説明した。アニメでは感動的なシーンが多いが、現実ではドロドロとした側面も多い。「会社の人が何か悪さをしていて人事に伝えたいって時に、自分の筆跡だとばれないようにするため利用された方もいます」と依頼例を挙げた。

 長谷川氏は一児のシングルマザー。離婚後、子どものことで残業が難しく、早退も希望しづらいため、会社勤めではなく個人でできる仕事を探した。5年前、フェイスブックに自身の筆記を投稿したところ、「字がうまいんですね」と褒められたことをきっかけに字を書く仕事に興味を持ち、代筆屋が目に飛び込んだ。「字が好きだからとか、おしゃれな理由はなくて、現実的に追い詰められてた部分があります」と振り返ったが、6歳から書道教室に通い、毛筆・硬筆共に段位を取得していた経験が生きた。

 代筆代金は400文字までが5500円。10文字増えるごとに110円が追加される。現在まで約20万文字以上を代筆してきた。タイプライターであるヴァイオレットと違った、”手書き代筆”だからこそできるこだわりがある。差出人の性別、年齢などさまざまな状況を考慮し、便せん、ペンの色、香水などを変える。「例えば、婚約破棄の手紙で花柄の便せんっておかしいじゃないですか。そういう時は落ち着いた色の便せん、高級感のある和紙が練り込まれたものを選びます。和紙ということは、にじまないペンを選ぼうというように手紙をコーディネートする工程があるんです」と話した。

 明るい話題もある。病気で手が不自由な女性から依頼を受け、ファンレターを代筆した際、その父親からお礼の手紙が届いた。「プレゼントをいただくなど、感謝されることも多いです。やっぱり他のお仕事ではなかなかないと思うので、変わった仕事ではあると思います」としみじみと語った。

 同作品を先日の放送で初めて鑑賞し、涙を流したという長谷川氏。体調が芳しくないマグノリア家の母親・クラーラが一人娘・アンへの手紙代筆をヴァイオレットに依頼したエピソードからアイデアが浮かんだ。「ホスピスにいる方に手紙代行サービスを伝えてみるのは、もしかしたら需要があるかもしれないと感じました。作中のお母さんは自分からヴァイオレットに頼んだと思うんですけど、逆に代筆屋の方から手が動かない方たちに『言い残したいこと』『伝えたいこと』があるなら、こういうサービスがあると伝えるのもいいんじゃないかなと思いました」と、言葉に力を込めた。

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