小林泉美 うる星やつら「ラムのラブソング」から40年 「自分はまだまだ」

山本 鋼平 山本 鋼平

 ミュージシャンの小林泉美(64)は近年、日本での活動が活発になってきた。東京音楽大在学中の1977年にレコード・デビュー後、自身のバンド活動、作曲、編曲、スタジオミュージシャンなどマルチな活動で成果を残したが、1985年に渡英。子育てを終え、2016年にロンドンを拠点に音楽活動を本格的に再開させた。1981年にテレビアニメ『うる星やつら』のオープニングを飾ったアニメソングの名曲「ラムのラブソング」を中心に、当時と現在の心境を聞いた。

アニソンの歴史変える一曲

 40年前。小林は既にミュージシャンとしての地位を確立していた。小林泉美&Flying Mimi Bandを率いてアルバムを発表、高中正義のバックバンドのキーボード奏者を務め、CM曲などの提供を行った。「私は便利屋でしたね」と謙そんするが、そんな中、テレビまんが主題歌からアニメソングへの過渡期、タイアップ曲が全盛を迎える寸前に、過去にないオリジナルソング「ラムのラブソング」が生まれた。

 「10代から『うる星やつら』は大好きでした。所属していたキティレコードの事務所で社長から『君は漫画の曲をやると売れると思う。今度これをやってみる?』と出されたのが『うる星やつら』でした。ぜひやりたいですと、次の日に3曲書いたら3曲とも採用されました。社長は多賀英典さんといい、井上陽水さんや安全地帯や久保田利伸さんと関わってこられたましたが、直感力のある人でした。曲のイントロではピョロピョロピョロと星が飛び、チャチャチャチャチャチャという流れがあるんですけど、狙ったわけではないんですが、あたるが走り回って、ラムちゃんが追いかけるような感じが、自然に出たのかなと思います」

 アレンジではこれまでになかった電子音楽を積極的に取り入れた。だが、リンドラム(電子ドラム)やリズムマシン(ローランドTR-808)の使用には批判的な声があったという。

 「やりたいようにやらせていただいて作曲からアレンジ、キーボード、コンピューターの打ち込みも全部一人でやりました。新しい機材が大好きでリンドラムはロスまで買いに行きました。今聴くとしょぼいんですけど味わいのある音です。岡正プロデューサーが曲を気に入ってくれ、後から聞くとフジテレビの会議で『こんなアニメソングはあり得ない』と反対されたらしいんですけど、岡さんが『今の時代は絶対これがいいから』と推してくださったらしいです」

 曲はヒットしたが実感する余裕はなかった。作曲能力の高さがオーバーワークを招いていた。

 「私はピアノでコードを弾きながらメロディを歌って、1曲を10分くらいで作ります。『がんばれ!!タブチくん!!』(映画、1980年)の劇音楽では1日に20曲書いたこともありました。キーボードの仕事も多くて高中正義さんや松任谷由実さん、井上陽水さんのツアーに出たり、CMの曲を書いたりして洋服を買う暇もなかったんです。1時間睡眠が続いてピアノを弾きながら寝ちゃったり、3時間眠れて喜んだくらいでした。売れている実感がないまま、次々にプロジェクトが続きました」

 多忙から逃れるように1985年に渡英。日本でのキャリアを終えた。それでも非凡な才能を生かし、印象的な仕事を残してきた。デペッシュ・モードやスウィング・アウト・シスターの楽曲にスタジオミュージシャンとして参加。1988年に出産後は仕事をセーブしたものの、渋谷のレコードショップCISCOのロンドン支部社長に就任し、ケン・イシイやBOOM BOOM SATELLITES、DJ KRUSH、石野卓球などミュージシャンの欧州進出をコーディネイトした。日本のテレビドラマ『悪女』(1992)、『女医』(1999)の劇音楽を担った。2016年から音楽活動を本格的に再開させた時期に『うる星やつら』が再び登場した。

 「最近、日本の80年代が盛り上がっているんです。フューチャーファンクというジャンルでうる星やつらや日本アニメの動画、竹内まりやさんの曲をサンプリングして、特に『Plastic Love』が大ヒットしました。シティポップがはやり出して、私まで取り上げられるようになってビックリしています」

 かつての音源が再評価された勢いに背中を押され、昨年は日本でライブイベントを実施。自身の歌声に乗せた「ラムのラブソング」のリミックスを披露し、評判を呼んだ。昨年11月にはテレビアニメ『東京ガンボ』の主題歌だった、最上もが「万物流転」の作曲を担当し、再びアニメソングへの関わりが始まった。

 絶えず穏やかな口調で、柔和な笑顔で語り続けた小林泉美。それでも日本でのレジェンド的な扱いには「自分はまだまだですから。恥ずかしいですよ」とキッパリ。「新しいアニソンは注文があればどしどしやっていきたいですね。音楽のネタはたくさんありますから」。飾り気のない言葉に、音楽への情熱をみなぎらせた。

AATA「真夏のせい」でオルガン演奏

 小林泉美は今夏リリースされたAATA(あ~た)の配信シングル「真夏のせい」にオルガン奏者として参加。息子のSKYTOPIAがプロデュースに携わった一曲で「すごく感じのいい曲で、歌も声の質が良くて、自分から参加したいとお願いしました」と、楽しそうに振り返った。シティポップ、R&B、ヒップホップ、ソウル、ボサノヴァなどボーダーレスな音楽性で注目を集めるAATAは、父親の影響で『うる星やつら』が大好きだったという。「作品と同じように『ラムのラブソング』も大好きでした。私の中で神格化されるくらい好きな小林さんの参加はうれしくて、演奏も素晴らしかったです。父に伝えるとすごく喜んでくれました」と興奮した口調で振り返った。9月3日のライブ(午後6時30分スタート、代官山SPACE ODD)に向けては「初の有観客バンドワンマンライブです。たくさんの方に力を貸していただき、開催を決めることができました。イベントタイトル『NEO』の通り、どんな状況でも常にアップデートし続け、”最新が最高”を体現するライブにしたいです。ぜひお越し下さい」と意気込みを口にした。

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