「反日」より「反共」だった文化開放前の韓国アニメ、そして北朝鮮の漫画は?意外な独自路線

北村 泰介 北村 泰介

 BTSをはじめとするK-POP、配信ドラマ「愛の不時着」など韓国発の大衆文化への関心は高いが、1997年に文化開放政策が打ち出される頃までのドメスティックな独自路線に関しては一般的にあまり知られていない。その一例として当時の韓国アニメにスポットを当て、さらには北朝鮮の漫画事情も併せて、近年、相次いで著書を出した2人の研究家に「朝鮮半島のアニメ・漫画事情」を聞いた。

 「韓国アニメ大全」(2017年、パブリブ発行)の著者「かに三匹」さんは都内在住の会社員。70年生まれの同氏が韓国アニメに目覚めたのは中高生だった80年代半ばにテレビ放映された「宇宙まぼろし城」という作品。約20年前から韓国に行き、ソウルの東大門市場にある中古ビデオ屋街でアニメのビデオやDVDを100本ほど収集してきたという。

 韓国アニメは60年代から制作されていた。中でも76年から始まったロボットアニメ「テコンV」シリーズの評価が高い。テコンドー修行に励む青年が、殺害された父によって開発されたテコンVと共に敵と戦う物語で、ロボットは「マジンガーZ」を彷彿させる。

キャラクターの実写とロボットアニメの合成も

 かに三匹さんは「テコンVシリーズの2作目『宇宙作戦』(76年)はフィルムが行方不明になっていたが、今ではYouTubeのおかげで見られるようになっています」と動画拡散の時代に感謝。その魅力について「懐かしさを感じます。日本の80年代ロボットアニメは韓国のスタジオに下受けをすごく出していたので、その当時の雰囲気が味わえる。『鉄人三銃士』(83年)という作品はクラッシャージョウがガンダムに乗って戦うという滅茶苦茶な作品ですけど、キャラクターとロボットの組み合わせの妙が楽しい。『花郎(ファラン)V』や『宇宙人コブラ』のようにキャラクターの実写とロボットのアニメを合成した作品も増えた」と解説した。

 韓国アニメには歴史背景を踏まえた「反日」の要素も。同氏は「テコンVシリーズの番外編『宇宙戦艦亀甲船』(79年)は、『宇宙戦艦ヤマト』を元に作ったと思しきストーリーなのですが、戦艦のデザインが豊臣秀吉の軍と戦った朝鮮の亀甲船。その英雄・李舜臣(イ・スンシン)を主人公にしたアニメもあり、その鎧がテコンVの頭部のモデルになっているとも言われています。また『太白山の虎』(94年)は日本の憲兵隊に師匠を殺された主人公が義兵運動(日帝からの独立運動)に身を投じる話で武士や憲兵隊と戦います」と紹介した。

 一方で、かに三匹さんは「反日よりむしろ、韓国では『反共』アニメが大量に作られています」と指摘。朴正煕(パク・チョンヒ)、全斗煥(チョン・ドファン)と続いた軍事政権下で北朝鮮との緊張がより強かった60-70年代からソウル五輪前の80年代半ば過ぎにかけての時代だ。

政治的な面と切り離せない部分も…

 「北朝鮮のスパイに殺された少年を韓国国旗に包んで弔うといった愛国的な意匠など、政治的な面と切り離せない部分もある。テコンVも最初は反共鼓舞アニメとして作られた歴史があり、悪役は『アカ帝国』。北朝鮮を意識していて、頭に赤い星が付いています」

 では、その北朝鮮はどうなのだろう。平壌でDVDや漫画本を買ってきた大江・留・丈二(おーうぇるじょーじ)さんにうかがった。同氏も70年生まれで都内のIT企業に勤務し、著書「韓国いんちきマンガ読本」(パブリブ発行)を19年に出版している。

 大江さんは「4、5年前、平壌のホテルや飲食店の売店のお土産コーナーを10数軒回って、漫画は100冊くらい購入しました。2012年発行でも、薄いワラ半紙の冊子でした。観光客向けの価格で1冊400から600円くらい。内容は子供向けの啓発漫画、歴史漫画、スパイ物。全部、計画生産で『金星青年出版社』の一社独占状態です。アニメは動物が出てくるものが多く、フランスのアニメーターが平壌で仕事をしていたりします」と説明する。

北朝鮮には特撮アニメ「一切ない」

 北朝鮮に韓国のようなロボット特撮アニメはあるのだろうか。大江さんは「全くないです」とし、「反韓」や「反日」「反米」を強調する描写については「漫画、特に成人向けのスパイものでは、反米・反韓表現は割と見られましたが、アニメに関しては児童向けのため、今回購入したDVDでもそうした描写は特に見られなかったです」と振り返った。

 かに三匹さん、大江さんへの取材時、次々と現物を眼前に示された。ネット情報だけで充足せず、足で稼いだ一次資料を大切にする姿勢がうかがえた。4月10日には配信中心のイベント「僕たちの韓国コレクション」が新宿・ロックカフェロフトで開催される。

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