神奈川県相模原市のタイヤ販売店「中古タイヤ市場相模原店」にある自販機コーナーが、レトロ自販機の聖地として熱視線を集めている。SNSでの拡散や昭和レトロブームの影響もあり、週末や祝日は一日1000人を超える人が来店。日本唯一のレア機も稼働中だ。昭和40~50年代に隆盛を誇った「コインスナック」は、Z世代と呼ばれる若者にも目新しい。令和の時代に、新たな魅力を放っている。
まだあったのか!落語家・笑福亭仁鶴さんが笑う「ボンカレー」自販機からは、ホカホカのカレーライスが出てきた。全国で唯一の稼働機とされる川鉄計量器製のカレー自販機もある。トーストサンドの自販機は「トースト中」という赤いランプがチカチカ点灯した。NHK「ドキュメント72時間」の題材にもなった富士電機製うどん・そば自販機は、数台現役だ。
コーラ瓶を引き抜く方式の自販機やみそ汁、お茶漬け、かき氷といった国宝級の珍品まで、106台が並ぶ。同店の運営会社社長・斉藤辰洋さん(49)は、個人的にレトロ機を収集。2017年、タイヤ交換などで訪れる客の休憩用に往年の自販機を置いたところ、大反響を呼んだ。
廃業する店からの声がけや業者からのオファー、ネットオークションなどで、絶滅危惧種となった食品自販機を集めている。ジャンク品も、斉藤さん自ら修理して復活。「修理業者に頼むと、コスト的にやっていけない」という。前出の川鉄計量器製カレー自販機は、埼玉県内の駄菓子屋で40年以上稼働していなかったものをよみがえらせた。
2021年9月、中古タイヤ市場に設置されていた人気のハンバーガー自販機のボタンが、何者かに破壊される事件が起きた。部品がなく斉藤さんが途方に暮れていると、名古屋市のプラスチックメーカーが無償で修理に名乗りを上げた。ボタンの押し加減や、色合いまで完全再現。「犯人は捕まっていないが、かわいそうだと思ってくれた業者が生きている部品を造ってくれた」と、貴重なレトロ自販機保存にかける人々の情熱は厚い。
店内のレトロ自販機で、最も古いものは1960年(昭和35)製造のロッテガム販売機(中山工業製)。斉藤さんは現在、70年代に生産されていたシャープ製めん類販売機を再稼働させるべく修理中だ。「古い自販機を直して動かすと、オレよりレトロ自販機が好きな人がみんな喜んでくれる。やりがいがある。修理は飽きないし、工夫していくんで」と使命を燃やした。
コンビニが台頭し、ホットスナックにも注力した昭和末期~平成初期にメーカーは次々と食品自販機の生産を終了した。「手間を考えるともうからないけど、今後もめずらしい年代ものの自販機を設置していけたら」と斉藤さん。故障していつ無くなるかわからない。いま食べておかないと…。レトロ自販機の不思議な引力に人々はひかれ、次々に100円玉を入れる。